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取材・文/池田充枝

プロの絵師ではなくアマチュアの知識人が余技的に描いた絵画を「文人画」と称しますが、その先駆者として知られるのが江戸期を生きた柳沢淇園(やなぎさわ・きえん)です。

柳沢淇園《大黒天図》〔宝暦6年(1756) MIHOMUSEUM蔵〕全期展示

淇園は、元禄16年(1703)、柳沢吉保の筆頭家老である柳沢保挌の次男として江戸に生まれ、吉保のもとに集まった知識者や芸術家などの文化を吸収しつつ成長しました。ことに絵画に才をみせ、長崎派の画家に師事して「唐絵」を学びました。

享保9年(1724)に、主家の転封にともない大和郡山に移り住み、同15年に家督を継ぎました。その後は公務が充実するにつれ作品制作も充実し、宝暦8年(1758)に没するまで絵画に真摯に向き合いました。

淇園の絵画は、濃彩で精緻に描く人物画や花果図が主であり、のちの文人画で主流となる柔らかな筆墨を使った「南宗様式」とは異なります。しかし、高い身分に生まれて教養を積み、為政に関わりつつ絵画表現を模索する生き方は、理想とされる伝統的知識人に最も近い存在であり、淇園が文人画家の先駆者といわれる所以です。

*  *  *

そんな柳沢淇園の主要作品が一堂に会する、実に約50年ぶりの展覧会が、奈良の大和文華館開かれています。(~2017年11月12日まで)

本展では、淇園の得意とした鮮やかな彩色の人物図、花果・花鳥図、爽やかな墨竹図、書跡などが一堂に会します。柳沢家の貴重史料や、淇園が学んだ黄檗の美術、淇園に影響を受けた次世代の文人画家たちの作品なども併せて、全79点を展示します。

本展の見どころを大和文華館の学芸部係長、宮崎ももさんにうかがいました。

「見どころとして、淇園の代表的作品である3点をご紹介いたします。

1点目は、MIHO MUSEUM 所蔵の《大黒天図》です。宝暦6年(1756)、淇園54歳の作品です。

大黒天は荷葉座に立ち、大きく口を開けて笑っています。真っ赤な日輪もおめでたい雰囲気を高めています。50代の淇園は、藩務が充実しており、人々の安寧を願う吉祥的な画題を積極的に描いていました。大黒天は真正面を向いていますが、こうした左右対称の整った構図を淇園は好んでいます。歯の一本一本を描くような細密描写や、朱や緑青の美しい発色が目を惹きます。

2点目は、雪の降る中、白い花を咲かせた梅の枝にとまる二羽の鳥を描いた《雪中梅花小禽図》(個人蔵)です。

柳沢淇園《雪中梅花小禽図》〔制作年不詳 個人蔵〕全期展示

コントラストのはっきりとした白黒の鳥(シマヒヨドリ)や、鮮やかな黄鳥(コウライウグイス)が、モノトーンの背景の中で存在感を放っています。ジグザグと折れる枝と斜めに伸びる枝がX字形に交差し、画面のほぼ中央に鳥を配する、理知的な構成が見事です。

3点目は、《墨竹図》(個人蔵)です。

柳沢淇園《墨竹図》〔制作年不詳 個人蔵〕前期展示

淇園は竹を愛しており、「淇園」という号も竹を意味するものです。多くの墨竹図を残していますが、この作品は、絹の裏に金箔を貼る裏箔という技法が用いられている点が珍しいです。月光を思わせる優しい輝きの中に竹の幹と葉が浮かび上がります。

濃密でありながら洗練された淇園の知と美の世界をご堪能ください」

鮮やかで優美。次世代の文人画に影響を与えた淇園の真髄を、ぜひこの機会にお楽しみください。

【展覧会情報】
『特別展 柳沢淇園-文雅の士・新奇の画家-』
■会期:2017年10月7日(土)~11月12日(日)※会期中展示替あり(前期:10月22日まで 後期10月24日から)
■会場:大和文華館
http://www.kintetsu-g-hd.co.jp/culture/yamato
■所在地:奈良市学園南1-11-6
■電話番号:0472・45・0544
■開館時間:10時から17時まで(入館は16時まで)
■休館日:月曜
■料金:一般930円 大学・高校生720円 中学生以下無料、20名以上の団体は割引あり
■アクセス:近鉄奈良線学園前駅より徒歩約7分

取材・文/池田充枝

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