文・絵/牧野良幸

溝口健二の『祇園囃子』は1953年(昭和28年)の作品。タイトルから分かるとおり京都の祇園が舞台だ。

冒頭、スクリーンは京都の瓦屋根を映していく。そこにまだ少女の面影のある栄子(若尾文子)が歩いてくる。向かうのは祇園の芸妓、美代春(木暮実千代)のところだ。栄子は自分も芸妓になろうとやってきた。

不覚にも僕はここまで観て、落ち着きのある流れに「古都はいいけど、地味な映画はどうも……」と思ってしまった。しかしそれは杞憂とすぐに分かる。主人公は芸妓でもストーリーは現代的だ。今と変わらない人間ドラマが繰り広げられる。

1年の修行を終えた栄子は、いよいよ美代春に連れられてお座敷にあがる。座敷には会社専務の楠田がいる。役所課長の神崎を接待しているのだ。

その神崎は大人の色気にあふれた、姉さん芸妓の美代春に一目惚れする。一方楠田も子どもっぽく生意気な栄子を気に入ってしまうのである。

映画ががぜん現代的になるのは、楠田が美代春と栄子を東京に連れていくところからだ。夜行列車の場面をへて、大都会の東京に舞台を移すのだからいかにも現代的。

とは言っても東京の場面は、宿の一室だけである。それでも栄子が「これが芸妓の制服や、このまま銀座のバーに行きたいわ」と息巻くところなど、いかにもお上りさんらしい。

楠田はこの宿で、東京に出張中の神崎に美代春を付き合わせ(つまり枕をともにさせ)、仕事の便宜をはかってもらおうと策略したのである。そうと知らずに東京に来た美代春であったが、しぶしぶ神崎と会う。ここらは成熟した女の弱さか。

ところがだ。二人を残して楠田は栄子を外に連れ出そうとするが、自分もムラッときた。栄子に迫ったのである。しかしまだ子どもで鼻っ柱の強い栄子は激しく抵抗する。

それでも無理矢理、栄子を押し倒す楠田。隣の部屋にいた美代春と神崎が、楠田の悲鳴を聞いて飛び込んできた時、楠田は口元を押さえてのたうちまわっていた。

こうして楠田の計画はおじゃんである。同性の僕としては、男が女を口説こうとして失敗するシーンは愉快だ。

しかししわ寄せは美代春と栄子にきた。楠田の機嫌を損ねたことで、二人はお茶屋から閉め出しを受けたのだ。座敷からお呼びがかからない。

窮地に陥った美代春に残された道は神崎に身体を差し出すことであった。そうすれば楠田の機嫌もなおり、お茶屋への出入りも許される……。

大人の事情に翻弄される美代春と現代っ子の栄子。二人の芸妓の間には世代の溝があり、女として生きて来た年月の差がある。しかしともに肩寄せ合って生きていこうとするのであった。溝口健二はそんな二人をけなげに描く。

【今日の面白すぎる日本映画】
『祇園囃子』
■製作年:1953年
■製作・配給:大映
■モノクロ/1時間25分
■キャスト/暮実千代、若尾文子、河津清三郎、進藤英太郎、菅井一郎、浪花千栄子
■スタッフ/監督: 溝口健二、脚本: 依田義賢、原作: 川口松太郎、音楽: 斉藤一郎

セルDVD版『日本名作映画集27 祇園囃子』(販売元: Cosmo Contents、品番:COS-027、価格1,800円)

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

 

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