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成瀬巳喜男『稲妻』|全員“問題あり”の家族を描く凄いドラマ【面白すぎる日本映画 第13回】

文・絵/牧野良幸

『稲妻』は成瀬巳喜男監督の1952年(昭和27年)作品である。成瀬が好んで取り上げることが多かった林芙美子の原作をもとにした文芸作品。

『稲妻』は家族ドラマである。しかしその状況たるや、かなり凄い。年老いた母親おせい(浦辺粂子)には4人の子どもがいた。長女の縫子、二女の光子、長男の嘉助、そしてこの映画の主人公、三女の清子(高峰秀子)である。

この4人兄妹の父親が全部違うのである。しかし、おせいは「おまえのおとっつぁんは、お巡りさんで、そりゃ立派な男だったよ」「あの子のおとっつぁんは気の弱い人だったねえ」とことあるごとに語り悪びれていない。となれば「家族で助け合って生きよう!」となるのが今のドラマであろうが、この映画は違う。観光バスの案内嬢をしている清子以外は、全員が“問題あり”の人間なのだ。

結婚している長女の縫子はどん欲な女だ。夫がいるのにやり手のパン屋、綱吉と付き合っている。まあ縫子の夫も妻の家族に金や酒をせびるくらいだから、これまた“問題あり”の男であるが。男といえば、長男の嘉助もそうで、戦争から帰ってからずっとブラブラしている。

唯一、二女の光子だけが誠実で、清子も信頼しているのだが、その光子も夫が急死してしまう。この夫も“問題あり”だった。生前に浮気をしていて子どもまで作っていたことが発覚する。愛人が突然、金をせびりにあらわれたからである。この愛人のずうずうしさも“問題あり”だ。

光子の夫の保険金を当てにしていたのは、愛人だけではなかった。母親のおせいや、長男の嘉助、そして金にめざとい縫子もそう。ひとり清子だけは光子を支えるが、肝心の光子は「夫のしたことは私が償わなければ……」と愛人にお金を差し出し、さらには清子が嫌っているパン屋の綱吉に入れ込んでしまう(綱吉は縫子とも付き合っていたから二股)。

とうとう清子は「こんなズルズルべったり、だらしない家族とはやってられない!」と、家を飛び出してしまうのであった。

ここまでは“問題あり”の人間たちによる群像劇が繰り広げられるが、清子が一人暮らしを始めてから出会うのが、逆に“いい人”ばかりとなるから面白い。そのコントラストはハッキリしていて、下宿は山の手であろうか、上品な住宅の二階。大家は善良な老女であり、隣には仲睦まじい兄妹が住んでいる。それも庭付きで、二人ともピアノも弾くというのだから健全この上ない。

下宿には姉の光子が訪れ、この環境をうらやましく思う。母親のおせいも心配してやってくる。この二人も清子の下宿にいる間は、何だかしっかりした人物のようである。こうして清子に笑顔が戻り、映画を観ている僕らも明るくなれるのであった。

よく考えたら、清子以外の誰も生き方は変わっていないのに、映画の終わりはすがすがしい余韻を持って終わる。これもまた成瀬映画の妙であろう。

ちょうど神保町シアターでは11月25日より《女優で観る〈大映〉文芸映画の世界》と題して、大映の文芸作品が上映される。『稲妻』も含まれるので、ご覧になってはいかがか。

『稲妻』
■製作年:1952年
■製作・配給:大映
■白黒/88分
■キャスト/高峰秀子、三浦光子、村田知英子、 植村謙二郎、香川京子、 根上淳、小沢栄、 浦辺粂子ほか
■スタッフ/監督: 成瀬巳喜男、原作:林芙美子、脚本: 田中澄江、音楽: 斎藤一郎

【女優で観る〈大映〉文芸映画の世界】
■期間:2017年11月25日(土)~12月22日(金)
■上映館:神保町シアター
■住所:東京都千代田区神田神保町1-23
■電話:03-5281-5132
http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/daieijoyu2.html
※「稲妻」の上映は12月16日(土)~12月22日(金)です。上映時間については、上記サイトをご確認ください。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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