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「やりたいことは無数にあるが残された時間がない」(松本清張)【漱石と明治人のことば75】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「やりたいことが無数にあるのに、残された時間がない」
--松本清張

作家の松本清張は、明治42年(1909)に九州・小倉で生まれた。
遅咲きの作家だった。処女小説『西郷札』の執筆は40歳。その後、『或る「小倉日記」伝』での芥川賞受賞を経て、文筆一本で立ったのは46歳だった。

けれども、それからの活躍が、質、量ともに目ざましかった。社会派推理小説という新しいジャンルを拓き、歴史・時代小説を書き、昭和史や古代史の謎にも果敢に踏み込んだ。

そんな松本清張が口癖のように言っていたのが、掲出のことば。

「無数にある」という辺りが、いかにも清張らしいエネルギーを感じさせる。夜中や休日に資料探しの手伝いを命ぜられ、苦労した担当編集者もいたらしい。

以前、北九州市の松本清張記念館で、作家愛用の斜面台を間近に見せてもらったことがある。作家はこれを、書斎机の上に載せて使い込んでいた。印刷工場で版下づくりの見習いから叩き上げ、朝日新聞九州支社の広告部でデザイナーとして働いた経験から、執筆時の手にかかる負担を少しでも軽減するために取り入れたやり方だという。

さまざまな角度から丹念に眺めると、右横手前付近に煙草の焼け焦げ跡が多数あるのを発見した。仕事への極度の集中ぶりを示すものだろう。最晩年には、さらに小さな斜面台を特注して二段重ねにし、衰える視力を補ったという。

80歳を超えてなお、松本清張は創作に執念を燃やした。最後の最後まで、エネルギッシュな作家だった。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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