超絶面白い映画!『幕末太陽傳』の尋常ならざるリアリティの理由【お江戸ルほーりーの時代劇、勝手に応援し隊 第五夜】

文/堀口茉純(お江戸ル、歴史作家)

宝塚歌劇団で4月から『幕末太陽傳』の舞台が始まるが、原作は昭和32年公開の同名の時代劇映画。私はこの作品が大好きだ。

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※日活ウェブサイトより引用(引用元:http://www.nikkatsu.com/movie/20196.html

舞台となっているのは幕末の品川宿の相模屋。壁が土蔵の様なナマコ壁であることから土蔵相模と呼ばれた実在の遊女屋で、攘夷派志士の根城として長州藩の高杉晋作らが出入りしていたことでも有名である。

『幕末太陽傳』の魅力はこういった史実に『居残り佐平次』『三枚起請』『品川心中』といった落語の世界が絶妙にミックスしたストーリーにある。予備知識がなくても楽しめるのは勿論、歴史に興味があれば更に味わい深くなるという趣向になっているのだ。

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※日活ウェブサイトより引用(引用元:http://www.nikkatsu.com/movie/20196.html

また役者の所作にも注目したい。まずヒロインのお染を演じる左幸子さんを初めとした女優陣の所作に無理がないのがいい。彼女たちはほとんどが遊女特有の、ずるずると引きずるような着物に打掛をまとっている。こういった衣装は裾裁きが難しいが、それをちゃんと日常着として着こなしているのが素晴らしい。

例えばお染がライバルの遊女と取っ組み合いの喧嘩をする場面。お互い頭に血が上った迫真の演技をしているために着物が大いに乱れるのだが、無意識に所作をこなしているために着物が乱れたら乱れたなりの美しさが絶妙に保たれている。

さらに特筆すべきは主人公の佐平次を演じるフランキー堺さんが醸し出す、尋常ではない生活感だ。キセルで煙草を呑む、薪を割って釜にくべる、足にお灸を据える……、これらの所作を台詞を喋りながら自然にこなしてゆく。

要は、役者が江戸時代であればあたりまえの所作をあたりまえのようにこなしているということだ。

東海道五十三次之内 品川之図(国立国会図書館蔵) 品川宿の遊女は名目上は旅籠の配ぜん係=飯盛り女。吉原の花魁にくらべると衣装の豪華さは劣りますが、人気は同じくらいありました。

東海道五十三次之内 品川之図(国立国会図書館蔵)品川宿の遊女は名目上は旅籠の配ぜん係=飯盛り女。吉原の花魁にくらべると衣装の豪華さは劣りますが、人気は同じくらいありました。

江戸時代とは生活習慣まるで変ってしまった現在では、このあたりまえがとても難しくなってきている。役者が時代劇に出る場合は、事前に所作指導を受けるケースが多く、一朝一夕で身につくものではないので演技が制限され、どこか動作がぎこちなくなってしまうことも多いようだ。この煩わしさが時代劇制作のハードルの一つになっている事は想像に難くない。勿論、これは役者のせいではなく、普段の生活様式の欧米化によるものなので仕方のないことであるのだが。

しかし60年前に『幕末太陽傳』が制作された頃は、まだ役者自身が江戸時代の生活を身近に感じられる環境にあった。それが所作に現れ、登場人物たちが江戸時代に実際に生きているようにしか見えないほどのリアリティを創り出しているのだ。

当時の時代劇が殊更に面白く感じるのも、此の辺りに理由があるのかもしれない。

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映画『幕末太陽傳』デジタル修復版公式サイト

http://www.nikkatsu.com/bakumatsu/

宝塚歌劇公式ホームページ 雪組公演 『幕末太陽傳』『Dramatic “S”!』
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/2017/bakumatsutaiyouden/

文/堀口茉純(ほーりー)
東京都足立区生まれ。明治大学在学中に文学座付属演劇研究所で演技の勉強を始め、卒業後、女優として舞台やテレビドラマに多数出演。一方、2008年に江戸文化歴史検定一級を最年少で取得すると、「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル」として注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。著書に『TOKUGAWA15』(草思社)、『UKIYOE17』(中経出版)、『EDO-100』(小学館)、『新選組グラフィティ1834‐1868』(実業之日本社)がある。

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『江戸はスゴイ』世界一幸せな人びとの浮世ぐらし
(堀口茉純・著、PHP新書)

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