今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。
【今日のことば】
「どこから登ったって、同じことだ。山はあすこに見えているんだから」
--夏目漱石
頂上へ至る道はあらゆるところにある。なんにせよ、自分自身で決めた道を黙々と歩んでいけばいい。迷う必要はない。そんな訓えととらえていいだろう。小説『虞美人草』よりのことばである。
ふと、禅の言葉「大道無門 千差路有(たいどうむもん せんさみちあり)」を想起する。悟りの世界に至るのに、門などはもうけられておらず、出入りは自由。どの道を選び、どこから入ればいいか、などというこだわりは不要である--。
毎年、全国の高等専門学校の生徒たちを対象としたロボットコンテストが開催されている。正式名称は「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」。その模様はテレビで放送され、見ているとつい引き込まれる。知恵を出し合って作り上げたチームのロボットを、操縦者がコントローラーで操作して、荷物を運んで積み上げて高さを競うなど、与えられた課題をさまざまなやり方でクリアしていく。
似たような動きをするロボットでも、細部にはそれぞれオリジナルの工夫が織り込まれているし、中にはあっと驚くような奇想天外なアイデアを実現してくる生徒たちもいる。
これなども、さまざまな道筋から山頂を目指すのに似ている。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。