大根をかじる藤吉郎(秀吉/演・池松壮亮)。(C)NHK

ライターI(以下I):2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』第1回が放送されました。

編集者A(以下A):冒頭に猿が大根を盗んでいくアニメーションでした。猿がやがて人間の姿に変わり、藤吉郎、のちの豊臣秀吉を演じる池松壮亮さんが大根をほうばっていました。これは30年前の大河ドラマ『秀吉』の竹中直人さんへのオマージュだと受け取った視聴者は多いのではないでしょうか。

I:第1回の試写会のあとの取材会でも制作陣に同様の質問をされていましたね。制作陣は、そもそも当時の日本にある野菜は何か? ということを考えたというような話をしていました。

A:確かに大根は、戦国時代に日本で栽培されていた野菜の中では見栄えがする野菜ではあります。瓜や牛蒡(ごぼう)、茄子、里芋、自然薯ではあまり絵にならないですし、かといってトマトなど、当時の日本では栽培されていない野菜を出すわけにはいかないですしね。

I:この大根を食べる場面で、戦国時代の日本には、キャベツもトマトも玉ねぎも白菜もじゃがいももさつまいももなかったということを子供たちと語り合ってほしかったりします。食べ物の話でいえば、以前、『完本 信長全史』(『ビジュアル版逆説の日本史第4巻』小学館)の企画で取材をしましたが、金平糖やカステラは、まさにこの頃日本にもたらされたものだというのも面白かったりしますね。

A:戦国時代の野菜に関して付け加えたいのが、大河ドラマの美術スタッフの凄さです。脚本や演出で「え? そんなことあり?」というのがあったとしても、食べ物や背景の調度など「美術空間」では「そんなのあり?」というのを徹底排除しているのが「大河ドラマ美術スタッフ」です。まさに大河ドラマを裏で強力に支えるプロフェッショナル集団。本連載でも可能な限り、「美術スタッフ」の凄さを子供たち向けに展開できたらいいなと思ったりしています。

『麒麟がくる』と同じく野盗に襲われる

A:さて、第1回冒頭の場面では、野盗に村を襲われるという展開になりました。2020年の『麒麟がくる』と同様の設定です。ロケ地も同じなのかな? と思ったりしました。時は、永禄2年(1559)です。やっぱりロケは心地いいですね。

I:信長が道普請にほっかむりをして参加していた場面もありました。なんだか、実際にこんな場面ありそうだなと思って見ていました(笑)。この時の小栗さんの表情がなぜかツボでした。おかしくてしょうがなかったです。

A:何気ない場面のようでいて、なんか深いところだなあと思って見ていました。本作の時代考証を務めている柴裕之先生などが言及しているのですが、秀長の「長」の字は、信長からの偏諱であるという説があります。従来の『太閤記もの』のように、信長と秀吉の関係中心の展開になると、「そうかなあ?」と感じてしまう説なのですが、ああいう展開になると、「信長の偏諱」も「そうかもね」という感じになります。

I:私は小一郎が「銭」を握りしめていたことが印象的でした。1枚の銭を、汚れた顔に白い歯を見せながら満面の笑顔で見つめる小一郎です。幼馴染で恋心を抱いている直(演・白石聖)からも銭をせしめているほどのちゃっかり者なんですよね。直も、銭で小一郎の関心を買っているし。小一郎は道普請の際の差配で信長に認められますが、信長といえば「永楽通宝」の旗印じゃないですか。なんかつながる気がしてならないんですよ。

A:貨幣経済を重視した信長ですからね。そこにいち早く、農民出身の小一郎も気づいているということですね。今後、そのあたりがどう描かれていくのかも注視していきたいところです。

信長の暗殺計画

I:藤吉郎とも小一郎ともつながっている坂井喜左衛門(演・大倉孝二)がいい味出していましたよね。大倉孝二さんといえば2004年の大河ドラマ『新選組!』の河合耆三郎(きさぶろう)役が思い出されます。『新選組!』第38回「ある隊士の切腹」では、河合耆三郎の切腹までの過程を描いた印象的な回ですが、この回を印象深い回にしたのは間違いなく大倉孝二さんの演技の賜物だと思っていました。2021年の『青天を衝け』では大隈重信を演じるなど、名脇役としての存在感は半端ありません。『豊臣兄弟!』でも、大倉さんのような手練れの俳優が坂井喜左衛門を演じることによって、明らかにピリッと引き締まっていました。

A:藤吉郎、小一郎の機転によって、信長暗殺計画があったことが露呈しました。藤吉郎らは、自分たちの手柄だと思っていたようですが、信長によって、丹羽兵蔵の手柄になりました。この事件は、信長に関する基本史料のひとつ『信長公記』に記された案件です。京都にいた丹羽兵蔵が船旅の際に不審な一団に気がつき、彼らの宿に少年を潜らせて「信長暗殺計画」を掴んだというものです。

I:あのくだりにはそういう背景があったのですね!

A:第1回では、DAIGOさん演じる斎藤義龍が「黒幕」設定でした。信長は美濃攻略にけっこう年数をかけていますから、今後に注目ですね。そして、この頃の信長の命は常に狙われていました。大河ドラマでは、1978年の『黄金の日日』で、川谷拓三さん演じる杉谷善住坊(ぜんじゅぼう)が信長を狙撃するという事件が描かれました。当時の信長の周囲は敵だらけ。ですから、後には「信長包囲網」という戦線が組まれたといわれるほど、常に緊張を強いられていたということです。

I:そうした「緊張」を描く場面と並行して、思わず笑ってしまう場面もいくつもありました。屋敷がボロだったり、藤吉郎が足軽大将じゃなかったり……。

A:4~5箇所はクスッと笑える箇所があったでしょうか。こういうのが毎週あったらいいなって思っています。さて、とにもかくにも「令和の太閤記」がスタートしました。俗に信長、秀吉、家康を称して、三英傑といいますが、本作に関していえば、信長、秀吉、秀長を以て「シン三英傑」でいいではないか、という印象です。読者のみなさんは、どのような感想を持たれたでしょうか。

銭を大事にしている小一郎(秀長/演・仲野太賀)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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