英語の表現の中には、映画や文学、歌から生まれたものがたくさんあります。たとえば、“May the Force be with you.”(フォースとともにあれ)。映画『スター・ウォーズ』の名台詞として、長く親しまれてきたフレーズですね。
このように有名でなくても、言葉が生まれた背景を知ると、その表現がぐっと身近に感じられたり、いつもと少し違う角度から英語の世界を楽しめたりするかもしれません。
さて、今回ご紹介するのは “cut to the chase”です。

“cut to the chase”の意味は?
“cut to the chase” を直訳すると、“cut” は(切る)、“chase” は(追跡)ですが……、そこから転じて
正解は……
「要点を述べる」
という意味になります。
遠回しな言い方をやめて、ストレートに要点に述べたり、本題に入ることを意味するフレーズです。
『プログレッシブ和英中辞典』(小学館)には、「いちばん大事なことに集中する,本題に入る.」と書かれています。
例えば、
1. “We don’t have much time. Let’s cut to the chase and get to the main point.”
(時間があまりないよ。余計な話は省いて本題に入ろう。)
2. “Cut to the chase. What are you really trying to say?”
(率直に言って。あなたは何が言いたいの?)《少し強い表現》
などのように使えます。

“cut to the chase”はどこからきた?
1920年代のサイレント映画(無声映画)では、物語の冒頭に長い会話シーンや説明的な場面が続き、その後ようやく観客が最も楽しみにしている「カーチェイス」や「アクションシーン」が登場しました。
しかし、観客の中には「もう説明はいいから、早く追跡シーンを見せてほしい!」と思う人も多く、そんなとき、映画の編集者や監督が “Cut to the chase!” (追跡シーンまでカットしろ!)と声を上げたことが、この表現の始まりとされています。
この映画界の言い回しが広まって、“cut to the chase” は「余計な前置きを省いて本題に入る」という意味の口語表現として使われるようになりました。インフォーマルな場面でもビジネスでも使われ、現在も日常でよく耳にする表現です。
「要点を述べる」の他の表現は?
“cut to the chase” と同じような表現として “get to the point” があります。ただし、こちらはより直接的で、相手に強い印象を与える言い方です。
たとえば、回りくどく話す相手に “get to the point.” と言うと、
「結局、何が言いたいの?」
「はっきり言って」
といった、やや圧のある響きになるため、使う場面には注意が必要です。
例文:
“I’m short on time, so I’ll just get to the point.”
(時間がないので、要点だけお伝えしますね。)
さらに、“get straight to the point” とすると、ニュアンスはより強くなり、
「早く言って」
「それで要点は何?」
と急かすような印象になります。
相手との関係性や状況に合わせて、どの表現がふさわしいかを注意深く選びたいところですね。

最後に
私たちは日々、限られた時間の中で、話したり聞いたりして、コミュニケーションを取っています。その中で「要点を述べる」ことは、とても大切な力です。話の核がはっきりすれば、相手は理解しやすくなり、誤解も減りますね。
けれど、要点だけに気を取られすぎると、少し危うさも生まれます。相手の感情や背景をすくい取れず、どこか冷たく響いたり、思わぬ誤解を招いたりすることもあります。
日本語から英語に翻訳するとき、難しい言葉のひとつに「余白」があります。
本の余白は “margin of a book”、空白は “blank space” や “white space” などと訳すことができます。けれど、沈黙や間があることで、かえって存在が際立つような、「なにもないのに、満ちている」。このような意味合いを、ひと言で英語に置き換えるのは、なかなか容易ではありません。
“Cut to the chase.”と要点を述べる必要がある場合もありますが、ときには、そんな「余白」のもどかしさや豊かさを味わいながら、“Let’s not cut to the chase.”(あえて、すぐに要点へ行かないでみよう。)と、寄り道を楽しむのも、またおもしろいかもしれません。
次回もお楽しみに!
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











