「学生時代以降、英語は勉強していないので話せないです」と言う人の声をよく耳にします。でも実は、中学2年生程度までの英文法を理解していれば、言いたいことは十分伝えられると言われています。
文法の基礎をもう一度見直すと、英語の世界がまるで違って見えてくるかもしれません。ぜひ楽しんで、取り組んでいただきたいです。
さて、今回ご紹介するのは「マンション」の英語です。

目次
“mansion” の本当の意味は?
「マンション」「アパート」「コンドミニアム」どう違う?
“mansion”の語源と意味の変化
「マンション」や「アパート」にまつわる世界のことば事情
最後に
“mansion” の本当の意味は?
日本で「マンション」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは、都市部にある鉄筋コンクリート造りの集合住宅でしょう。エレベーターや整ったエントランスがあり、最近ではオートロックや宅配ボックスが設置されていることも珍しくありません。
しかし、英語の“mansion”は、日本語で使われる「マンション」とはまったく意味が異なります。
実は、英語で“mansion”と言えば、「大邸宅」や「豪邸」のことを指します。広い庭やプール、複数のガレージがあり、家の中にはお手伝いさんがいるような、まるで映画に出てくるような立派なお屋敷が、英語の“mansion”のイメージです。
『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)には、「(豪壮な)大邸宅」と書かれています。

「マンション」「アパート」「コンドミニアム」どう違う?
日本語で「マンション」といえば、中高層の鉄筋コンクリート造の集合住宅を指しますが、一方で、「アパート」というと、一般的には木造や軽量鉄骨造で、2〜3階建ての比較的小規模な集合住宅をイメージする方が多いのではないでしょうか。
ところが、英語の“apartment”という言葉には、そうした区別がありません。大小や構造、高級さに関係なく、集合住宅全般を指して“apartment”と呼ぶのが一般的です。
【例文】
“I live in an apartment in New York.”
(ニューヨークの集合住宅の一室に住んでいます。)
さらに、旅先などでよく聞く「コンドミニアム」。日本語では「高級リゾートの宿泊施設」といったイメージがありますが、英語での“condominium”(略して“condo”)は、「分譲マンションの一戸」を意味します。
【例文】
“I bought a condo downtown.”
(都心に分譲マンションの一室を買いました。)
“mansion”の語源と意味の変化
“mansion” ということばの語源は、ラテン語の“mansio”(マンシオ)に由来します。もともと「滞在する場所」や「宿泊所」といった意味を持ち、旅の途中に立ち寄る場、あるいは「住まい」そのものを指して使われていました。
そして、時代を経るにつれて、「住まい」という広い概念から、やがて裕福な人々の大きく立派な家、つまり「大邸宅」や「豪邸」の意味へと変化しました。現代、特にアメリカでは、庭付きでプールや複数の部屋を備えた、映画スターやセレブが住むような豪華な住宅のことを“mansion”と呼ぶのが一般的なようです。
一方、日本でこの言葉が使われ始めたのは、高度経済成長期の頃。不動産業界が住宅を高級感のあるものとしてアピールするために、英語の “mansion” ということばを取り入れたといわれています。「マンション」という響きが持つ、上品で洗練されたイメージが、日本の都市型住宅に受け入れられ、そのまま定着したのですね。
「マンション」や「アパート」にまつわる世界のことば事情
「マンション」「アパート」「コンドミニアム」など、住まいに関する言葉は、国や地域によってその意味合いやイメージが異なります。ここでは、いくつかの国で使われている表現をご紹介しながら、それぞれの背景にある文化の違いを少し覗いてみましょう。
“flat”(フラット):イギリス
イギリス英語での “flat” は、アメリカ英語の “apartment” にあたります。日本でいう「アパート」や「マンション」の一室のような意味で使われることが多いです。
“mansion”(マンション):イギリス
一方、「マンション」は、英米ともに「豪邸」や「大邸宅」を意味します。特にイギリスでは、歴史的な趣のある広大な田舎の邸宅 “country mansion” なども含まれます。

“HDB flat”:シンガポール
シンガポールでは、“HDB(Housing & Development Board)”と呼ばれる国の住宅開発機関が提供する公共住宅のことを “HDB flat” と言います。多くの国民がここで暮らし、生活の基盤となっています。
ちなみに、日本語で「バンガロー」と言えば、夏のキャンプなどで使う簡易な小屋を連想しますね。けれど、シンガポールで、 “bungalow” は裕福層が住む大邸宅を指します。
“apartment”:UAEや中東地域
アラブ首長国連邦(UAE)や中東地域では、都市部で見られる集合住宅を “apartment” と呼びます。特に外国人居住者向けには、“furnished apartment(家具付きアパート)” が数多く提供されています。
そして “mansion” はここでも「豪邸」や「邸宅」を意味します。ただ、こちらでいう “mansion” は、富裕層が住む宮廷のような建物を指すこともあるようです。
このように、私たちが何気なく使っている言葉も、国が変わればその響きや意味が大きく変わります。その土地の暮らしや文化、歴史を言葉から垣間見ることができるのは、おもしろいですね。
最後に
アメリカを代表する詩人、エミリー・ディキンソン(Emily Dickinson, 1830–1886)の詩の一節をご紹介します。
I dwell in Possibility –
By Emily DickinsonI dwell in Possibility –
A fairer House than Prose –
More numerous of Windows –
Superior – for Doors –わたしは可能性に住んでいる
散文よりも美しい家に
もっと多くの窓があり
扉は、はるかに優れている(中略)
出典:The Complete Poems of Emily Dickinson, Little, Brown and Company, 1960年刊
この詩からは、ディキンソンが詩というものに、散文にはない自由や可能性を見出していたことが伝わってきます。
彼女にとって詩は、決まりごとにしばられず、自分の内側にある思いをのびやかに表現する手段でした。この詩は、私たちの心の中にも、それぞれの「家」があり、そこに無限の可能性が息づいていることを教えてくれるようです。
マンション、アパート、一戸建て。たとえどこに暮らしていても、心の家は自由に、豊かに広がることができるのかもしれませんね。
次回もお楽しみに。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
