鳥山検校は「悪徳高利貸し」
I:さて、「泣く子もだまる高利貸し」的な存在だった鳥山検校ですが、劇中では、「すべて瀬以の望むままに」という姿勢が印象的でした。所作も佇まいも台詞回しも堂に入った感じがします。
A:お白洲での一連の描写は、大河ドラマ史上の「名場面」として記憶されるかもしれないですね……。そして、「世の中には検校を腹の底から憎んでいる人がいるんだよ」という台詞が飛び出しました。確かにその通りなのでしょう。とはいえ、吉原の人間がそれをいっちゃあ、おしまいよという感じもしました。検校を憎むような人々から巻き上げた金を原資として、検校などは吉原で豪遊できたわけですからね。
I:旗本の娘が苦界に送られる世になるとは想定していなかったんでしょうね。意次(演・渡辺謙)のいうとおりに幕府の経済はここまで悪化していたということなのでしょう。現代にも通じる話です。
I:今週、私がちょっとおもしろいと思ったのが『契情買虎之巻(けいせいかいとらのまき)』という書物について触れられていた場面です。この本は「瀬川もの」とよばれる鳥山検校と瀬川の動向を一冊にまとめたもので、このころ同種の本が複数刊行されたようですね。そんな中で、蔦重(演・横浜流星)は、瀬以に一緒に店を持とうと持ち掛けます。
A:蔦重が瀬以に店を持とうという展開になり、ああ、なんかいい話だなあ、と受け取る人もいたかもしれませんが、私は別の見方をしています。蔦重は、瀬以に対して、『契情買虎之巻』の感想を聞こうとしましたが、これは、鳥山検校と瀬川のことをモチーフにした「小説」。現代でいえば、週刊誌などに描かれたゴシップ記事を手渡して「当人がどう思うか聞いてみてぇんだ」というのと同じこと。いささかデリカシーに欠ける問いかけなのかなとも思っています。
I:なるほど。そういう見方もできるということですね。まあ、受け取り方は人それぞれですけど、蔦重は、以前にも、「あっちにくいつくヒルじゃねえか」と瀬川にいわれていましたから、なんだかんだいいながら、忘八的思考が染みついているのかもしれないですね。そのどちらにも解釈可能な感じを絶妙な空気感で演じている横浜流星さんに凄みを感じます。

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