
歳を重ねるにつれ、大切な人たちとの別れが多くなることは否めません。大切な人が亡くなったあと、「こうしてあげたかった」とか「ああすれば良かった」と後悔をした人もいることでしょう。医師であり、エッセイストである川村隆枝さんの最新刊『亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか』(アスコム)は、そんな人たちにそっと寄り添ってくれる一冊です。
川村さん自身もこの10年で、父、母、そして夫と、最愛の人達との別れを経験し、後悔の連続で胸が痛く、寂しい夜を過ごすこともあるとのこと。日にちが経つと悲しみは薄れていくと言いますが、決してそうではないことも実感されています。それでも、残された人は生きなければなりません。川村さんがさみしさに向き合いながらも、静かに、自身のために生きている様子は、同じくさみしさに打ちひしがれている人たちが前を向いて歩き出すためのきっかけになるはずです。今回は、「孤独の楽しみ方」についてお伝えします。
文/川村隆枝
孤独には耐えられるけど、孤立は絶対に避けたい
若い頃は、自分の老後の生活を考えることはほとんどなく、そのときに直面する仕事や家庭の問題に取り組むことで精いっぱいだった気がします。最近、老後の生活資金2000万円問題も話題になりましたが、経済的な面だけでなく実際の生活の場について考えることも大切だと思います。以前、家庭は大家族により形成され、その中に色々な世代の人がいました。互いに助け合って一生を終えることができたわけです。現代では核家族化し、個人情報保護法のもと近隣の人の詳細も把握が困難です。夫婦二人で助け合えているときはまだいいのですが一人になったらどうしようと悩み、このまま一人で頑張るか子供の家に移り住み同居するか迷うことになるでしょう。
ですが、最近は子供の生活を尊重し一人で頑張る人が多いようです。また、子供は、世代も違えば価値観も異なるので、意外と理解し合えないことがあります。私たちには子供はなく夫と二人の生活でしたので、お子さんを持つ知人に「私は一人だけどあなたは息子さんやお孫さんがいていいわね。さみしくなんかないでしょ?」と言ったことがあります。すると、その知人は「とんでもない、息子夫婦の家に行くと孫もいて可愛いけど遠慮して早々と帰ってくるの」「いないよりさみしいものよ」と意外な返事でした。65歳以降の20~30年間を充実した人生にするにはどうしたらいいか悩むところです。長く連れ添った配偶者に先立たれたりして、喪失感を抱えてしまう人も少なくないでしょう。
私の場合、夫と二人の生活でしたが夫に先立たれ一人ぼっちの生活になってしまいました。最初は悲しみ、戸惑い、恐怖、孤独感にさいなまれました。それでも「これではいけない。何とか生きなければ!」「こんな元気のない私を見て圭一さんはきっと悲しむだろう。そんな姿を見せてはいけない」と自分を鼓舞し、どうしたらいいか懸命に考えました。
孤独には耐えられるけど、孤立は絶対に避けたいと思いました。考えてみると孤独は案外いいものです。好きな時間に好きなことができるからです。すなわち生活のすべてが自分の思い通りになる幸せを味わうことができるのです。私は今、孤独を楽しんでいますが、友人たちとの関わりが何より大切だと思っています。仕事仲間はもちろん、ゴルフ仲間やボランティア仲間もたくさんいます。一人の時間を大切にしながらも、決して孤立はしていないのです。
フランスの作家バルザックは「『孤独はいいものだ』ということを我々は認めざるを得ない。しかし、孤独はいいものだと話し合える相手がいることも、一つの喜びだ」と書いています。外との繋がり、すなわち孤立をしないためにお勧めなのが、ボランティアなどの社会奉仕活動に参加することです。社会奉仕活動は、常に人手を欲しがっていますから誰でも歓迎されますし、社会の役に立っているという感覚が自他ともに得られやすく、困っている人を助けて自分も幸せになるのであれば一石二鳥です。
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亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか
川村隆枝
アスコム 1,650円(税込)
川村隆枝(かわむら・たかえ)
医師・エッセイスト。
1949年、島根県出雲市生まれ。東京女子医科大学卒。同医大産婦人科医局入局。1974年に夫の郷里の岩手医科大学麻酔学教室入局、同医大付属循環器医療センター麻酔科准教授。2005年(独法)国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長。2019年より、岩手県滝沢市にある「老人介護保険施設 老健たきざわ」施設長に就任。仙台で麻酔科医として多忙な日々を送るなかで、自身の体験をつづった『心配ご無用 手術室には守護神がいる』を上梓。本書は鈴木京香・三浦友和主演で映画化される。その後も、医師や、介護施設の施設長として働きながら、夫の介護や介護施設での経験をもとにエッセイを執筆。エッセイストとしても活躍を続けている。
