歳を重ねるにつれ、大切な人たちとの別れが多くなることは否めません。大切な人が亡くなったあと、「こうしてあげたかった」とか「ああすれば良かった」と後悔をした人もいることでしょう。医師であり、エッセイストである川村隆枝さんの最新刊『亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか』(アスコム)は、そんな人たちにそっと寄り添ってくれる一冊です。

川村さん自身もこの10年で、父、母、そして夫と、最愛の人達との別れを経験し、後悔の連続で胸が痛く、寂しい夜を過ごすこともあるとのこと。日にちが経つと悲しみは薄れていくと言いますが、決してそうではないことも実感されています。それでも、残された人は生きなければなりません。川村さんがさみしさに向き合いながらも、静かに、自身のために生きている様子は、同じくさみしさに打ちひしがれている人たちが前を向いて歩き出すためのきっかけになるはずです。今回は、「自分を癒す存在を見つけることの大切さ」についてお伝えします。

文/川村隆枝

自分へのご褒美は?

皆様は自分へのご褒美はどうしていますか? 不安や悩みを頭から消してできるだけ快適に過ごすためには自分へのご褒美、つまり、自分で自分を楽しませることが一番です。

以前夫が脳梗塞で倒れ、クリニックの閉鎖、入院治療、その後の長い長い介護生活で心身共に疲弊した私を奮い立たせたのは、自分へのご褒美でした。友達と美味しい食事をする、広い自然の中でゴルフをする、愛犬たちと戯れるなどとたわいもないことでしたが、将来を見通せない不安と恐怖から解放され、活気を取り戻す源となりました。

当時、そんな私を一部の人は「旦那が寝込んで、あんな状態なのによく遊んでいられるね」と言って非難ごうごうだったのも知っています。でも、「自分が元気でなければ二人ともダメになってしまう」、そういう思いから非難をよそに自我を通してきました。夫もそんな私を理解してくれたようで、黙って静かに見守ってくれて、ありがたかったです。私たち二人の幸せな将来のためにそうやって頑張ってきたのですが、残念ながら彼は約5年前に逝ってしまいました。一人になってからしばらくは、孤独との闘いでした。さみしさと不安に悩まされました。「あの人はもういない。なのに、なぜ何を求めてこれから生きていくのか?」と辛い時間をがむしゃらに過ごしてきました。夫婦二人でいたときのように、外出して人とワイワイ楽しむことも気乗りしなくなり、自然と一人で楽しむ時間が増えてきました。

その中で、これからの人生を充実して送るにはどうしたらいいか? と考えました。答えは、自分自身を元気にすることです。そのためには、不安や悩みを頭から消してリセットする時間をつくることです。そして、自分自身に活力を与えること。もう誰も褒めたりしてくれないので、自分自身で褒めてあげること。そのためのご褒美です。

以前、エッセイの中で「馬と人参」というのを書きました。馬は、目の前に人参をぶらさげるとよく走るといいます。私の人参は何でしょうと考えると、今はゴルフかテレビで韓国ドラマを観ることです。それがまずご褒美、さらに、美味しいものを少し食べることや、エステやエルメスのスカーフを買うこと、自分でも欲張りかな? と思ってしまうくらいです。でもそれらを念頭におくと元気が出て仕事がはかどります。広い山野に出て新鮮な空気を思いきり吸い込み白いボールを思いきりかっ飛ばせば(スコアは二の次)、嫌なことはすべて忘れてしまいます。この美しい自然の中で、今生きていることの幸せを感じ、誰にともなく感謝の気持ちでいっぱいになります。次に美味しいもの、好きなものを少しだけ食べること。今はもう若かった頃ほど多くはいらないので、いわゆる腹八分目ぐらいでしょうか。うっかり夜たくさん飲食すると翌朝胃もたれになってしまいます。ダイエットのためにも寝る前の4時間は食べないようにしています(飲み物はOKだそうです)。

*  *  *

亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか
川村隆枝
アスコム 1,650円(税込)

川村隆枝(かわむら・たかえ)
医師・エッセイスト。
1949年、島根県出雲市生まれ。東京女子医科大学卒。同医大産婦人科医局入局。1974年に夫の郷里の岩手医科大学麻酔学教室入局、同医大付属循環器医療センター麻酔科准教授。2005年(独法)国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長。2019年より、岩手県滝沢市にある「老人介護保険施設 老健たきざわ」施設長に就任。仙台で麻酔科医として多忙な日々を送るなかで、自身の体験をつづった『心配ご無用 手術室には守護神がいる』を上梓。本書は鈴木京香・三浦友和主演で映画化される。その後も、医師や、介護施設の施設長として働きながら、夫の介護や介護施設での経験をもとにエッセイを執筆。エッセイストとしても活躍を続けている。

 

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