独居老人は不幸、孤独死は悲惨……、そんなイメージがあるかもしれませんが、老後の自由な時間をひとりで謳歌している人もたくさんいます。とはいえ、健康もお金も無限ではなく、不安が多いことも事実です。

遺品整理、生前整理などのプロである山村秀炯さんによると、老後のひとり暮らしを阻む壁は「お金」「健康」「心」「介護」「死後」の5つだとか。そして、この「壁」を上手に乗り越えられる人ほど、自分の生き方に納得していて、幸せに暮らしているそう。山村さんの著著『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(アスコム)では、山村さんが出会った“老後おひとり様”たちの具体例を挙げながら、立ちはだかる壁の対策法を解説しています。

夫や妻に先立たれたり、熟年離婚、こどもに頼る気はない……など、誰もが老後をひとりで暮らす可能性がある中、ぼんやりした不安を抱えている“老後おひとり様予備軍”にこそ、読んでいただきたい一冊です。「何かあったら、こうすればいい」とわかるだけで気が楽になるはずです。

今回は、「お金」の壁との向き合い方についてご紹介します。

文/山村秀炯

老後2000万円問題なんて意味がない

老後の生活資金が心配だという人も少なくありません。つい「老後はいくら蓄えがあれば安心なのか」を知りたくなってしまいますが、万人にとっての正解などないのが実際のところでしょう。

以前「老後2000万円問題」が話題になりました。しかしこの数字にはなんら意味がないと私は思います。これは2017年の総務省の家計調査をもとに計算されたものです。65歳以上の無職・夫婦世帯の家計の収支を参照して、30年間の不足額を算出したわけですが、2018年以降も同じように計算したらどうなるかご存知でしょうか。ここでは詳しい計算は割愛します。結果だけ見てください。

2018年=老後1500万円問題
2019年=老後1200万円問題

私が遺品整理をしてきた中には、何百万円もの現金が無造作に置かれていた部屋もありましたが、遺品は意外と質素なものでした。お金があってもそれを使わないままに亡くなる人も多くいます。未開封のブランド品や家電製品が大量に残されていた部屋もありました。身もふたもないことをいえば、お金が多くあればあるほど不便はないに決まっています。だからといって「1億円あれば絶対に安心だよね」と言われても、ふざけるなと怒る人が大半でしょう。一方で、生活保護を受けながら、あっけらかんと暮らしている人もいるわけです。

老後2000万円問題は、老後の生活資金に意識を向けるきっかけにはなりました。が、話題になりやすいニューストピックのひとつにすぎないといえます。

老後ひとり暮らしの投資は危険もいっぱい

「退職金を運用しませんか?」
金融機関に口座を持っていると、こんな営業をかけられることがあります。金融機関は、口座にまとまったお金が入金されたことを把握しているので、絶好の営業機会になるのです。たしかに預貯金の金利は低いので、「ただ預けておくよりはいいかも」と考えてしまいますが、60代以上の高齢者は投資には慎重になったほうがいいでしょう。

理由のひとつは、金融機関です。大手の銀行や証券会社で販売している金融商品は、ネット証券と比べると運用コストが高い傾向にあります。証券会社や銀行で販売している金融商品は主に投資信託です。投資信託には(1)販売手数料(2)運用手数料(信託報酬)(3)解約手数料の3つがあります。いまは(3)の解約手数料を取る投資信託はほとんどないようですが、購入の際には、念のため確認しておいたほうがいいでしょう。しかも、販売窓口にいるのは「運用のプロ」ではなく「販売のプロ」です。彼らも商売ですから販売ノルマがあり、売りたい商品、つまりは儲けが大きい商品をすすめてきます。

お金の相談ができる相手はなかなかいませんし、おひとりさまなら、なおさらでしょう。金融機関の担当者につい頼りたくなりますが、信用しすぎるのも危険です。さらに、リスクの問題もあります。投資におけるリスクとは、値上がりと値下がりの振れ幅が大きいことです。一般に比較的振れ幅が小さいとされる債券を組み込むなど、高齢者はリスクにより慎重にならねばなりません。

若い現役世代と違って、高齢者は収入も運用期間も限られます。長期・分散投資は安定運用の鉄則ですが、高齢者にとって現実的でしょうか? 若ければ損失が出ても働いて取り戻すことができますが、高齢者には難しいでしょう。家計の見える化をして、いかに赤字を出さず、資産を減らさないかを考えたほうが無難だと思います。

*  *  *

山村秀炯(やまむら・しゅうけい)
株式会社GoodService代表。
愛知県を中心に遺品整理、生前整理などの事業を行う中で、ひとり暮らしシニアのさまざまな問題に直面。親族や友人に頼れない、頼りたくない「おひとりさま」という生き方を尊重し、なおかつ不安やトラブルなく生きていくためのサポート事業を新たに立ち上げる。東海テレビ「スイッチ!」、名古屋テレビ「UP!」など、メディアへの出演・取材協力も多数。

 

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