
元NHKアナウンサーであり、2000人以上の方に教えてきた墨屋那津子さんが上梓した『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』(飛鳥新社)では、「自分本来の声」を活かして話すことで、内容は変えずに「伝わる」話し方になるメソッドを公開。これまで、ありそうでなかった“読むボイトレ本”として注目を集めています。
墨屋さんのボイトレは、声の出し方を少し変えるだけで、見違えるようにビジネスもプライベートもうまくいくと評判です。従来の声本・話し方本に多かった「抑揚をつける」「くっきりはっきり」「声を作る」といった「偽の自分」を演じる必要は一切なし! 本書から、声の使い方や話し方のコツなど、トレーニングをする前に知っておきたい「声」や「話し方」についてご紹介します。今回は、多くの人の悩みを“スミヤメソッド”で解決します。
※本書には各所にQRコードが掲載されています。スマートフォンでコードを読み取ると、筆者による1分程度のレッスン音声を聞けます。
文/墨屋那津子、イラスト/みわまさよ
お悩み1:声が老けた気がする(かすれ、弱々しい、低くなる)
「なんだか声が老けた気がする」というのはよく相談される悩みです。でも、70代、80代の声優が幼児や若者の役を演じているように、声は日常的に使い、トレーニングを続ければ若々しさを保てます。コロナ禍前と比べると、対面で人と話をする機会が減った人も多いかもしれません。この状態を放っておくと、体の筋力が衰えるように、声に関わる筋肉(声帯)や肺活量も使わないとどんどん衰えていきます。その結果、かすれる、弱々しい、低くなるといった「老け声」になるのです。
まず大前提で、高い声が若い声というわけではありません。年を重ねるとムリが利かなくなるので、強引に若い頃の理想の声を出そうとすると老けた気がするかもしれません。自分らしいよい声をキープして、老け声を解消するには、まずは毎日、会話や音読で声を使うことが大切です。その際は地声を使います。もしふだん人と話す機会があまりないなら、声を出す機会をつくりましょう。目に入るものは全部、音読の教材です! たとえば、目に入ったペットボトルの文字。電柱の広告。カレンダーの説明文。カラオケ。コンビニのレシート。テレビや動画の字幕。他に、自己紹介文や雑誌、大好きな小説など、なんでもかまいません。これらの文字を毎日声に出す習慣をつけましょう。リラックスして呼吸しながら声を出してほしいので、寝転がって読んでもかまいません。音読は脳を鍛える効果もあると言われています。また、音読を習慣にしていると、口周りの筋肉が鍛えられるため小顔にもなり、口角も上がります。
お悩み2:早口になってしまう
早口の人はとても多いもの。でも、早口で話されると、相手はそのスピードに合わせて内容を理解しなければならず、負担が大きくなります。実は、かくいう私も早口でした。新人の頃、ニュースを読むときに緊張して、早くニュースを読んで終わりたいと無意識に思っていたのでしょう。先輩から、「ニュースを自分の耳で聞いてる?」と言われて、目からウロコ。それまでは、自分が話すニュースの内容を理解することばかりに集中して、自分の声が他人にどう届いているかなど意識していませんでした。考えてみたら、私の声を聞くのは私ではなかったのです。
早口を直したい場合、自分の話を自分の耳で聞いてみるトレーニングをしましょう。「自分で言ったことを自分で聞く」という意識を持つだけで、話すスピードは落ちます。また、言いたいことが多すぎるのも早口になる原因です。できれば、そのとき伝えたいことを1個に絞りましょう。もし、プレゼンやスピーチなどで、決められた時間内に話が終わるか心配な場合は話す内容を80〜90%ほどに削り、間を取る余裕をつくりましょう。これで、時間オーバーを気にせず、相手に伝わりやすい話し方ができます。相手にしっかりと伝わることを第一に考えると、自然と早口は改善されるはずです。声をギフトと考えて、相手が確実に受け取れるように意識して話してみてください。話す際には1音目にアクセントをつけて、後は自然に下がってくることが大事です。また、意味のまとまりごとや、強調したい言葉の前で息継ぎをするようにしましょう。これだけで、自然な間が生まれ、相手はその間を使って内容を理解できます。
お悩み3:相づちを打っているのに「本当に聞いてる?」と言われてしまう
たとえば、誰かから「1億円当たりました!」と言われたら、あなたはどう反応しますか? 「えーーー! ほんとーー?」と驚いた声を出すはずです。このとき、きっと感情を込めたエネルギッシュな「えー」が出ているでしょう。実は、このような感情豊かな声による相づちこそが、相手に「聞いているよ」というよい印象を与えるのです。
しかし、日常の会話の中では、つい相づちが機械的になってしまい、相手に「本当に聞いてる?」と思われがちです。それは、あなたの相づちにエネルギーが不足しているからかもしれません。相づちは、単に打てばいいというものではなく、相手に「ちゃんと聞いていますよ」という気持ちを伝えるためのものなのです。では、どうすれば相づちにエネルギーを込められるのでしょうか?
まずは話を聞きながら、相づちを打つ前によく息を吐ききってから吸います。その後、「へー」「そうなんだ」といった相づちを言いましょう。これで相づちに自然と息がのり、話もはずみます。また、相づちを長くしてみてください。短く「えー」や「うん」で済ませるのではなく、頭にアクセントをつけて、少し伸ばして「えーーー」「へーーー」と言うだけ。それだけで、相手はあなたが本当に興味を持って聞いていると感じやすくなります。この息がのった、長めのエネルギッシュな相づちを体で覚えておきましょう。さらに、相づちを豊かにするための心構えも重要です。すべての話を「自分にとっての学び」ととらえるマインドを持ちましょう。そうすると、驚いたり、感心したりする気持ちが自然と湧き、より感情豊かなすごい相づちが打てるようになります。
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あなたの話が「伝わらない」のは声のせい
墨屋那津子
飛鳥新社 1,650円(税込)
墨屋那津子(すみや・なつこ)
アナウンサー(元NHK)/キャリアカウンセラー
石川県生まれ。NHK『おはよう日本』『ニュースウオッチ9』ニュースリーダー、NHK E テレ『100 分de 名著』語り手などで活躍。30年以上にわたる幅広い経験を通じて培った「声のキャリア」と「声の原則」を基盤に、声の出し方を変えることで誰でも瞬時に「伝わる話し方」を実現する「スミヤメソッド」を確立。「自分本来の声」を最大限に引き出し、声の力で多くの人の課題解決に貢献。人生を好転させるサポートをしている。即効性が特徴で、「同じ話をしても印象が変わる」「滑舌が劇的に改善」「話し方に説得力がついた」と評判を呼び、口コミだけで2,000人以上が受講。また、カナダ・トロント大学と専修大学で実践的講義を行う。企業のコミュニケーション顧問やセミナー講師も務める。国内外のCEO、要人、アナウンサー、ナレーター、会社員、学生など幅広い受講者の声を変えてきた実績がある。
