『源氏物語』の和歌を中心に仮名文字で認めた個展開催。

今週末10月6日(日)に第38回が放送される大河ドラマ『光る君へ』。残すところ10回ということで、そろそろ終盤に差し掛かっている。劇中では、吉高由里子さんが演じる藤式部(まひろ/紫式部)が執筆する『源氏物語』が貴族たちの間で評判を呼び、みなが最新話を待ち焦がれているような状況だ。

実在する人物や出来事を材に巧みに紡がれた『源氏物語』(当時は「源氏の物語」と呼ばれていた)と、ドラマの物語がシンクロし、ドラマを見るうちに、もう一度『源氏物語』を読んでみたい、あの世界に没入してみたい、と思った向きも多いはず。

折しも、『光る君へ』の題字を担当した書家の根本知(ねもと・さとし)さんによる『源氏物語』を題材とした個展『和歌でたどる源氏物語 根本知書展』が東京日本橋の三越本店で開催されている。

「いづれの御時にか女御更衣あまた候ひ給ひける中に……」で始まる『源氏物語』第1帖「桐壷」の有名な冒頭が、華やかな料紙に微風に揺れる薄煙のような軽やかな仮名文字で綴られている。藤式部(紫式部)の時代の華やかな宮中サロンを想起させつつ、どこかこの世のものとも思われないようなはかなさが感じられる。

ギャラリーにはこの他、「紅葉賀」「若菜」「葵」「夕霧」などから引かれた和歌が流麗な仮名文字で料紙に認められ、軸装あるいは額装されて展示されている。日本人の心を伝えるために生まれた仮名文字は、美しい料紙の上で雅な和歌という形になってこそ、生を受けて息づき始める。

「まずは歌や文の選定から始まります。『源氏物語』の中から、これを表現したいと思う和歌や文章を決めて、そのイメージに合う紙を選びます。それからその紙に合った文字や歌の区切り方などを考え、仕上げていきます」(根本さん)

例えば、「桐壺」帖からとった和歌。

尋ねゆく幻もがなつてにても 魂の在処をそこと知るべく
(大意:更衣の魂を尋ねゆく幻術士がほしいものだなぁ。せめて人伝てにでもその魂のありかをそこと知ることができるように)

唐の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を歌う白居易の『長恨歌』の影響を色濃く受けているといわれる『源氏物語』「桐壷」帖で、儚い命の桐壷更衣が辞世の句として詠んだ歌だ。桐の花を思わせる淡い薄紫を基調とした料紙に、濃淡で強弱をさりげなくつけた仮名が、漂うように書かれている。さながら、儚くも美しい桐壷更衣の魂が残り香を思わせるような筆の運びだ。

『源氏物語』の内容ばかりでなく、物語の時代背景なども知り尽くしてこそ表現できる仮名文字の作品群に、思わずため息がもれる。

随所に平安貴族たちの書が登場する『光る君へ』に書道指導として参加し、ドラマの中で映し出される文字のほとんどを手掛けた経験があってこそ、『源氏物語』から題材をとった今回の仮名文字作品群が完成したのだろう。

それぞれの作品には書き下し分と現代語訳、解説が添えられており、活字に慣れた目にもわかりやすい。現代的な感覚とは異なる行変えや、ひとくちに仮名といっても様々な書体があり、ひとつの和歌の中でも使い分けがされている様をまじまじと見て、その趣に浸る。自分にとって親しみのある帖の和歌に出会うと、文字がいつの間にか大和絵のようなビジュアルになって脳裏に広がる。

『光る君へ』の終盤戦に向けて、改めてドラマの顔である題字を担当した根本さんの『源氏物語』世界に触れてみてはどうだろうか。

根本知(ねもと・さとし)
昭和59年、埼玉県生まれ。博士(書道学)。立正大学特任講師ほか。本年の大河ドラマ『光る君へ』題字揮毫および書道指導を担当。『平安かな書道入門 古筆の見方と学び方』など著書多数。 11月2日~12月25日には奈良県奈良市の奈良市杉岡華邨書道美術館にて「根本知の仕事-源氏物語から現代かなの美へ-」を開催予定。

『和歌でたどる源氏物語 根本知書展』
日本橋三越本館6階アートギャラリー
令和6年10月2日(水)~7日(月)
10時~19時(最終日は17時まで)

 

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