長い翼を使い、悠然と空を舞う。

鮎釣りの人々の姿が河原から消えると、その上空を大きな猛禽類の鳥がゆったりと舞うようになります。それが、ミサゴです。

ミサゴは魚ばかり食べるタカ科の鳥で、鮎釣りシーズンが終わって川に残った「落ち鮎」やコイなどを狙いやってきます。翼を広げるとトビと同じくらいの大きさですが、体型はトビよりほっそりして見えます。長く伸びやかな翼が美麗で、こちらに向かってくるシルエットはユリカモメに似ています。湖や海岸にも生息し、河口近くでは大きなボラを獲ります。

鶚は冬の季語

ミサゴと日本人との関わりの歴史は古く、『日本書紀』には覚賀鳥(かくかとり)という名で登場します。また、『太平記』では本間孫四郎という新田軍の侍が、捕らえた魚ごとミサゴを射落として足利軍に見せつける場面が描かれています。ミサゴは古来、私たち日本人が親しんできた鳥なのです。鶚は冬の季語でもあります。ちなみに、和名は水に飛び込む時の音の「びしゃご」が転化して「みさご」と表すようになったとされています。

ホバリング(停空飛行)をしながら川面に目を凝らすミサゴ。

ミサゴの狩り

一般的には、あの軍用機の名前の由来となった英名「オスプレイ」の方が馴染みがあるでしょう。本家のこちらは音もなく魚影の濃い川面の上空に飛来し、束の間、その長い翼をゆったりと羽ばたかせて停空飛行、ホバリングをするのです。そして狙いを定めた水面を目がけ、両脚の鋭い爪を開いて豪快にダイブ。ものすごい水しぶきが上がり、水中でその黒く長い爪を獲物の魚に突き立てて掴むと、大きな羽ばたきとともに飛び上がって魚を持ち上げて運んで行きます。

ミサゴの獲物を掴む脚は魚を狩るのに適ったつくりになっています。

スズメやメジロなどの趾(あしゆび)は前に3本、後ろに1本。いっぽう、ミサゴの脚は可変対趾足(かへんたいしそく)といい、4本目の趾(後ろ側の1本)を前方にも後方にも動かすことが可能で、セキセイインコやフクロウのように前後2本ずつの趾の状態にして獲物をしっかり掴めるのです。足の裏には無数のトゲ状の突起があって滑り止めの役割を果たしています。また、この時、ミサゴが魚の頭を前にして両足で掴んで飛ぶ姿がよく目撃されるのですが、これは空気抵抗を減らすためのミサゴなりの工夫なのだといいます。

浅瀬でアユを捕らえた。魚影の濃い場所では一度に二匹の獲物を捕獲することもある。

ユーモラスに見える表情

ミサゴの狩りの成功率は百発百中ではありません。何度川面に飛び込んでも「手ぶら」で水中から飛び立つこともあれば、上空を何度も旋回して、ついには飛び込むことなく去っていくこともしばしばです。さらには、せっかく獲った魚をカラスに横取りされたり誤って落としてしまったりすることもあります。思いがけない場所に魚が落ちていたとニュースなどで報じられることがありますが、これはミサゴの「仕業」の可能性が高いとされています。

狩りに失敗して飛び立つミサゴ。

獲物をきちんと両脚にぶら下げて得意げに羽ばたく姿も、狩りに失敗してバツが悪そうにカメラマンの前を通過していく表情も、どこかユーモラス。これからの季節は、そんなミサゴを探しながらの河原散歩も楽しみです。

文・写真/中村雅和
幼少期から生き物や鉄道に親しむ。プロラボ、大手住宅地図会社の営業マン、編集プロダクション、バス運転士、自然保護団体職員などを経てフリーの編集者に。

 

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