愛らしいから、癒されるから、生態の不思議に迫りたいから……など、動物園や水族館に出かける動機は人それぞれ。贔屓に出会える“いきもの”についてとくと紹介。
【ジンベエザメ】
学名:Rhincodon typus
分類:テンジクザメ目ジンベエザメ科
全長:最大10〜12m
特徴:体の白色の斑点が「甚兵衛羽織」に似ていることから、この名が付く。日本近海には初夏から秋にかけて回遊する。本近海には初夏から秋にかけて回遊する。
大阪湾に面する、世界でも最大級の展示規模を誇る水族館が海遊館だ。太平洋とそれを取り巻く自然環境が趣向を凝らした大水槽で再現され、約620種、約3万点の生物が暮らす。
滝が流れ、草木が茂る「日本の森」水槽から太平洋を巡る旅が始まり、海鳥のエトピリカが暮らす「アリューシャン列島」、アシカやアザラシが泳ぐ「モンタレー湾」などの展示を眺めながら進む。
順路の中盤に差しかかると「太平洋」水槽が現れる。フロア3階分に設置された水深9m、最大長34mに及ぶ巨大水槽だ。群をなすアジや水中を羽ばたくように泳ぐエイなど大小さまざまな魚類の中から、ひときわ大きないきものが目前を横切る。ジンベエザメだ。
世界最大の魚類の行動を記録
ジンベエザメは温暖な海に棲息し、全長は12m以上にもなる世界最大の魚類である。サメの仲間であるが主にプランクトンなどを食べ、同じ水槽で暮らす魚類が捕食されることはない。
海遊館のジンベエザメは2頭、オスの「海(かい)」(推定8〜9歳、全長5.4m)とメスの「遊(ゆう)」(同16〜17歳、同6.1m)である。ともに体重は1トンを優に超える。
「ジンベエザメの生態は、じつはまだよく分かっていないのです」
そう言うのは、飼育担当の芳井祐友さんだ。芳井さんたち飼育チームでは、1日3回、各30分ずつ水槽越しにジンベエザメの泳ぐコースや便の状態など、「ワッチ」(行動観察)をする。月に一度は24時間連続のワッチを行なう。
ワッチには、大きく分けるとジンベエザメの健康状態をチェックすることと、行動記録を残して研究資料とする目的がある。全長10mを超える巨大生物ながら、寿命は100歳を超えることもあるとされ、未だジンベエザメの生態は未知の領域が大きい。
ジンベエザメはどこから来てどこへ行くのか。生態の謎は深い
海遊館では高知県土佐清水市に「大阪海遊館 海洋生物研究所以布利センター」を設け、大型魚類の飼育と研究を連携して行なっている。海遊館で飼育されている2頭も、高知県沖で入網し同センター経由でやってきた。センターではジンベエザメをいったん飼育し、健康状態に問題ないと判断したのち海遊館に輸送する。
海遊館での飼育は、全長6mを超える頃まで行ない、その後は元の海に放流する。現在、メスの「遊」は6mを超え、いずれ海に帰される。
放流時に、発信器を取り付けて回遊ルートを調査することもある。東南アジアまで南下した記録があるというから、ジンベエザメの回遊範囲はかなり広い。発信器には寿命があるため行動の全容には迫れないが、ジンベエザメの謎を解き明かそうと、回遊ルートの調査に挑み続けている。
泳ぎながら給餌をする
ジンベエザメの給餌(エサやり)は、1日2回(10時半と15時)に分けてオキアミやサクラエビなどを与える。1回に与える量は1頭あたり3〜4kgだ。給餌の様子を見せてもらった。
「太平洋」水槽に芳井さんともうひとりの飼育員がウェットスーツ姿で現れた。水面を柄杓で叩くとジンベエザメが寄ってくる。そのタイミングで、芳井さんたちはエサの入ったバケツを片手に水槽に入る。水槽を旋回するように、ジンベエザメと一緒に泳ぎながら、大きく開いた口にエサを直接流し込む。水面給餌という方法だ。給餌は10分弱で終わるが、人の何倍もの大きさの生物が、エサを追い求めるダイナミックな光景に思わず息を呑む。
「エサの時間になると察知して近づいてきます。なつくことはありませんが、愛着が湧いてきます」(芳井さん)
給餌の様子は別料金で公開されている。大水槽を泳ぐジンベエザメを堪能し、ときには裏手に回り、飼育の様子まで見学できるのが海遊館の魅力のひとつだ。
海遊館
大阪市港区海岸通1-1-10
電話:06・6576・5501
開館時間:10時~20時(入館時間は変動あり)、土日祝休日は開館時間の変更あり
休館日:不定
入館料:2700円(変動あり)
交通:地下鉄大阪港駅から徒歩約5分
取材・文/宇野正樹 撮影/小林禎弘
※この記事は『サライ』本誌2024年5月号より転載しました。