愛らしいから、癒されるから、生態の不思議に迫りたいから……など、動物園や水族館に出かける動機は人それぞれ。贔屓に出会える“いきもの”についてとくと紹介。
【ジャイアントパンダ】
学名:Ailuropoda melanoleuca
分類:哺乳綱食肉目ジャイアントパンダ科
体長:140〜160cm
特徴:中国の四川省、陝西省、甘粛省などの高地に棲息し、野生は1800頭前後。竹が主食で成獣の体重は100kgを超える。
リゾート地として知られる和歌県白浜町にあるアドベンチャーワールドに、中国から2頭のジャイアントパンダ(以下、パンダ)がやってきたのは1994年のこと。以降30年にわたり、20頭のパンダが飼育され、17頭が誕生した。ここで生まれたパンダは名前にすべて「白浜」の「浜」が付き、アドベンチャーワールドのパンダファミリーは「浜家」と称される。中国以外の飼育施設でこれほど繁殖した例はない。
現在、アドベンチャーワールドには、母親の良浜(らうひん)とその娘である結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)の4頭が暮らす。良浜は永明(えいめい・2023年に中国へ)との間に、10頭の子をもうけた。なぜ、アドベンチャーワールドのパンダは子だくさんに恵まれているのか。飼育スタッフの中谷有伽さんに聞いた。
「オスとメスの相性がよかったのでしょう。パンダの発情期は短く、相性が合わないと見向きもしません。また白浜の温暖な気候や、なにより、共同繁殖研究を行なう中国のサポートがあったからこそだと思います」
パンダは猛獣に属する
4頭のパンダは園内の「パンダラブ」(結浜、楓浜)と「ブリーディングセンター」(良浜、彩浜)の2か所で暮らす。午前10時の開園とともにゲスト(来園者)が両施設に続々と集まってくる。
パンダラブはガラスがなく、愛らしい仕草のパンダを観ることができ、竹を囓る「バキバキ」という音が間近に聴こえる。屋内にあるブリーディングセンターではガラス越しにパンダと会うことになるが、その分、至近距離から行動を観察できる。目の前を歩くパンダは思い描いていたよりずっと大きく、迫力がある。
「パンダはライオンなどと同じ猛獣に属する動物です。飼育スタッフになつくことはありませんし、私たちも通常は柵を隔てて飼育をしています」(中谷さん)
起きている間は竹を食べ、満腹になると寝る。食べて寝るのがパンダの日課。
楓浜(ふうひん)メス・3歳
パンダは4頭とも、のびのびと過ごしている。ときおり“パンダ座り”をして足を前に投げ出して竹を囓ってみせると、詰めかけたゲストがざわめくほど、どの仕草も愛らしい。
「東京から年間パスポート(※発行日より1年間、登録本人のみ使用できるチケット。大人1万8700円)を使って通ってこられるゲストの方もいらっしゃいます」(広報課・北村あすかさん)というのも頷ける。
飼育スタッフはパンダがいちばん過ごしやすい環境を整え、日々の変化にも目を凝らし、健康管理に努める。中谷さんに飼育の苦労を聞いた。
「エサの竹の確保です。パンダは1日に15〜20kgの竹を食べますが、気に入った竹しか食べないので与えた半分くらいを残します。多いときで1日4〜5回は竹を入れ替える必要があります。ここがほかの動物と違うところです。ですから、パンダが好む大量の竹を京都と大阪などから、それぞれ週に2回搬入しています」
パンダは起きている間は竹を食べ、満腹になると寝る。夜間も目が覚めたら竹を食べまた寝る。食べて寝るのがパンダの日課といってよい。
「夜間などスタッフが不在でも竹が食べられるよう、竹を充分に用意。スタッフの出勤前から起きて食べていることもあります」
見た目とのギャップ
「パンダを実際に見るとかわいいだけではなく、力強さや旺盛な食欲など新しい印象を持たれると思います」と中谷さん。
アニメなどにより、パンダほどイメージが固定化している動物はない。目の当たりにすると、巨大な珍獣である。しかし、白と黒の独特の姿が動く様子を見ていると、思わず「かわいい」と口に出てしまうのも事実である。
彩浜(さいひん)メス・5歳
結浜(ゆいひん)メス・7歳
良浜(らうひん)メス・23歳
アドベンチャーワールド
和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2399
電話:0570・06・4481
開園時間:10時〜17時(夜間特別営業日あり、繁忙期は開園時間変更の場合あり)
休園日:不定
入園料:5300円
交通:JR白浜駅より路線バスで約10分、アドベンチャーワールド下車。南紀白浜空港から路線バスで約5分、アドベンチャーワールド下車
取材・文/宇野正樹 撮影/小林禎弘 写真提供/アドベンチャーワールド
※この記事は『サライ』本誌2024年5月号より転載しました。