愛らしいから、癒されるから、生態の不思議に迫りたいから……など、動物園や水族館に出かける動機は人それぞれ。贔屓に出会える“いきもの”についてとくと紹介。

2014年12月21日生まれのリラ。デナリとララの間に円山動物園で誕生。臆病な反面、警戒心がなくなれば大胆な行動もする。

【ホッキョクグマ】
学名:Ursus maritimus
分類:哺乳綱食肉目クマ科
体長:オス〜2.5m、メス〜2m
特徴:数km離れたところにいるアザラシのにおいを嗅ぎ取るほど、鋭い嗅覚を持つ。前足をオールにし、後ろ足を舵に使い巧みに泳ぐ。

ホッキョクグマは、大人のオスで体重800kg、体長2.5mにも達する。クマ科のなかで最大級の肉食獣だ。その名の通り、北極圏を中心に棲息し、主に氷上のアザラシを獲物とする。

ホッキョクグマの飼育には、本来の行動を引き出すためのプールが必要。泳ぐ姿は水中トンネルから、くまなく観察することができる。

札幌市円山動物園では現在2頭のホッキョクグマを飼育し、ホッキョクグマ館では、放飼場でエサを食べたり、遊具で遊んだりする姿をさまざまな角度から見学できる。人気なのが、ホッキョクグマがプールで泳ぐ様子を間近に見られる水中トンネルだ。プールに飛び込むのが見えると、来園者は階下の水中トンネルへ急ぐ。泳ぐ姿を常に見られるわけではないので、時間の許す限り待つことをお勧めしたい。

8頭の子を産み育てた

野生のホッキョクグマの推定棲息数は2万6000頭程度(2017年)。近年は環境変化などにより棲息数が減り、レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)で絶滅の危険性が増大の絶滅危惧II類に指定されている。

動物園ではホッキョクグマの展示だけではなく、海外を含む他園と共同で研究を行ない、飼育のノウハウも共有する。繁殖も動物園の大きな役割だ。これまで園で育った8頭すべてが飼育中のララ(29歳メス)とデナリ(2023年死亡)の子だ。水中を元気いっぱいに泳ぐリラは末っ子である。

リラ メス・9歳

雪の中に隠した遊具を掘り起こして遊ぶ。毛の色は白で、クリームがかって見えるのは光の屈折による。

ホッキョクグマの飼育と研究に取り組む動物専門員の鳥居佳子さんは、繁殖の苦労をこう語る。

「ホッキョクグマの繁殖は、発情が分かりにくい。そのうえ800gほどの小さな子を出産するため、ある程度の大きさに育つまでに死亡してしまうことが多く、難しいとされています」

そんな中でララは、デナリとの相性がよく8頭もの子を産み育てた。この頭数は日本最多だ。ホッキョクグマは非常に神経質ゆえ子育てに成功するまで静かな環境を整えるにも苦労するという。

「ホッキョクグマ館の展示を通して、来園の方々にこれまでの研究成果や、北極圏における野生下の状況も発信していきたいと思っています」(鳥居さん)

動物専門員の鳥居佳子さん。ホッキョクグマとアザラシを担当し、昨年はカナダの北極圏にある棲息地で、大学と共同して調査を行なった。

札幌市円山動物園

北海道札幌市中央区宮ケ丘3-1
電話:011・621・1426
開園時間:9時30分〜16時30分(3月〜10月、入園は16時まで)、9時30分〜16時(11月〜2月、入園は15時30分まで)
休園日:第2・第4水曜(8月のみ第1・第4水曜)、4月と11月は第2水曜を含む月曜〜金曜、12月29〜31日
入園料:800円
交通:地下鉄円山公園駅から徒歩約15分。地下鉄円山公園駅から路線バスで約7分、動物園前下車

取材・文/宇野正樹 撮影/藤田修平 写真提供/札幌市円山動物園

※この記事は『サライ』本誌2024年5月号より転載しました。

『サライ』2024年5月号の特集は『大人が行きたい「動物園」と「水族館」』。

 

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