「画聖」、「水墨画の巨匠」などと評され、今なお日本美術史上で最も重要な画家といわれる雪舟。室町時代に活躍し、日本の絵描きとして初めて水墨画の本場・中国に渡った雪舟の絵画の本質とは何か。僅か20数件しかない雪舟真筆のうち、国宝指定される6作品の見どころを仔細に紹介。中でも『四季山水図巻( 山水長巻)』については特別に本誌引き出し付録で全図を掲載する。

【国宝】『四季山水図巻(山水長巻)』

『四季山水図巻(山水長巻)』部分

国宝の中でも白眉というべき大作

中国から帰国して後、雪舟の庇護者となった山口の大名・大内政弘のために描いた大作。画風は南宋の画家・夏珪の山水画巻を参考にしたという。しかし、山下さんは次のように語る。

「それは形式を借りただけのことで、長大な画面に表された山や岩、四季折々の樹木や人物の姿は、すべて雪舟らしい奔放な筆遣いで描き出されています。水面に引かれた青い彩色の美しさは筆舌に尽くし難いもの。是非、じっくりと実見していただきたい作品です」

『四季山水図巻(山水長巻)』全図 毛利博物館蔵
国宝、一巻、紙本墨画淡彩、40.8×1602.3cm、文明18年(1486)。16mもの長大な画面に切り立った崖の続く岩場や渓流、水辺、人で賑わう村、巨大な城壁の街などを四季の景物を織り交ぜながら描く。雪舟67歳の作。
画巻のちょうど中盤付近に描かれる、鋭く屹立した岩場と対峙するかのようにして立つ七重塔。中国で実際に見た金山寺の塔をイメージして描いたのだろう。
画巻前半の終盤に描かれる水辺は夏の風景。漁民たちの長閑な暮らしぶりが伝わる部分だが、水辺に引かれた淡い青の絵の具の色がなんとも美しい。
長閑な水辺に続く場面では、一転してゴツゴツとした岩場が、雪舟独特の猛烈なスピード感のある筆捌きで描写される。「これぞ乱暴力」と山下さんは言う。

●解説 山下裕二さん(明治学院大学教授、美術史家・65歳)

やました・ゆうじ 昭和33年、広島県生まれ。東京大学大学院修了。日本美術史専攻。縄文から現代美術に至るまで、日本美術全般の研究を手がけ展覧会の企画など幅広く活躍。著書に『未来の国宝・MY国宝』など。

【国宝】『慧可断臂図(えかだんぴず)』

『慧可断臂図』 斉年寺蔵
国宝、一幅、紙本墨画淡彩、183.8×112.8cm、明応5年(1496)。「面壁9年」の座禅を行なう禅宗の始祖・達磨のもとへ若き日の神光(後の二祖・慧可)がやってきて、入門の決意を示すために自らの左腕を切り落とした逸話を描く。落款に雪舟77歳の作とある。

シリアスなのにどこかユーモラス

「これは私が一番好きな雪舟の作品。国宝指定作の中では最新の2004年指定。なぜこんなに遅かったかというと、雪舟=山水というイメージが強すぎて、突出したスタイルの人物画である本作の魅力を理解する専門家が少なかったからです」と山下さん。座禅を組んだ達磨の白い衣の線は水墨というよりはマジックインキで引いたように見えるし、体躯のグラフィカルな表現は当時の絵画の規範をはるかに逸脱した傍若無人ぶり。山下さんはこのような有り様を「雪舟の乱暴力」と呼ぶ。

山下さん曰く「眉毛とか髭の描線が、実に無骨なんです。近代日本画的な意味でのディテールの完成度とか、水も漏らさぬテクニックの冴えとか、その種の期待には雪舟という絵描きはほとんど応えてくれません。でも、そんなことは気にしていない、雪舟という人の人間味が溢れていて面白いのです」。
中国五山第三位の天童寺で座禅の席次が一番という称号を授かったという意味の落款。帰国後の作品に繰り返し入っており、よほど嬉しかったのだろう。ある意味でお茶目。
衣の背中には墨継ぎの跡。本来なら一気呵成に一筆で引きたいところだったに違いない。

【国宝】『秋冬山水図』

室町水墨にしてすでに抽象画

この部分だけを拡大して掲載すると、これがまさか室町時代の水墨画だとは誰も思わないのではないか。まるで400年以上も後のモンドリアンの抽象画のようだが、実は、雪舟の中でも最もよく知られた一作である。

上の図版は『秋冬山水図』冬景の岩山の部分だが、この絵には実に奇妙な描写が多々あるという。山下さん曰く、「中空に突き出したヘロヘロとした線が岩壁を表していますが、途中で切れている。その左下の遠景の山と同化した台型の山も不自然。画面下部のボトボトと置かれた墨の塊などもそうなんですが、これらは雪舟が“ここにこの形がなきゃ嫌だ、この黒い墨の塊がほしい”という衝動で描いているんですね。これこそが、当時の絵画の規範を逸脱した雪舟の乱暴力。それが当時、斬新だったのです」

【国宝】『破墨山水図』

『破墨山水図』 東京国立博物館蔵
国宝、一幅、紙本墨画、148.9×32.7cm、明応4年(1495)。雪舟76歳の作。絵の上に弟子に求められて描いたことや中国での回想が認められている。雪舟以前には皆無だった画家の肉声を伝える点で画期的で、故に国宝指定となった。
『破墨山水図』に入る自序。中国渡航の回想をする「入大宋國」の「入」の大きさに「中国に行ったんだぜ、という雪舟の想いが滲む」と山下さん。

潑墨という前衛技法に挑戦

輪郭線を用いずに墨を潑いで山や樹々の景観を表現する技法を「潑墨」(※国宝の『破墨山水図』も「潑墨」による作品だが、自序に「破墨」の文字があることからこの名称となっている。)と呼ぶ。雪舟が晩年に特に好んで手がけており、6点の真筆が現存する。

【国宝】『天橋立図』

日本美術史上、初となる実景描写

【国宝】『山水図』

『山水図』 個人蔵
国宝、一幅、紙本墨画淡彩、118×35.5cm、室町時代(16世紀)。画上左側の賛に友人の禅僧・了庵桂悟が「雪舟逝く」と認(したた)めている。揮毫(きごう)されたのは永正4年(1507)で、この少し前に雪舟は87歳くらいで亡くなったと考えられている。本作が絶筆とされる所 以である。岩や小径、楼閣や屹立する山々を幾重にも重ね合わせる画面構成が雪舟の特徴をよく表している。

最晩年にして際立つ雪舟の真骨頂

雪舟の絶筆とされるが、絵の内容はなんとも破天荒で乱暴力全開。例えば、遠景の船の手前にあるのに最遠景の山と同じ薄墨のシルエットで描かれる中景の山。「もう合理的な遠近感だとか、適切な奥行きの空間を描くことなど、どうでもよくなっていたのでしょう。“俺はとにかく真ん中あたりにこの遠景の山の形がほしい”という衝動で描いているとしか思えない。そんな生々しい息遣いや想いが如実に滲み出てしまうところに雪舟の本質があり、それこそが最大の魅力だと思います」(山下さん)

作品の右下、画面構成的には最近景に当たる場所に松林らしきものが描かれる。これは本来、遠景の樹の描き方だが、そんな絵画の規範はお構いなしに逸脱するところが雪舟だ。
画面中ほどに最遠景の山と同じシルエット状の岩山。その奥に描かれる船の方が遠方のはずで、合理的には全くもってありえない描写だが、ここに雪舟の欲求が表出している。

●掲載作品のうち、作家名のないものはすべて「雪舟」の作品です。また、特に明記した作品を除くすべての作品は京都国立博物館で開催予定の特別展「雪舟伝説」の出品作です。

※この記事は『サライ』本誌2024年5月号より転載しました。

『サライ』2024年5月号の引き出し付録は「国宝 雪舟『四季山水図巻』」。

 

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