字画も少なく、しょっちゅう目にする簡単な漢字。読めそうなのに、いざ声に出して読もうとすると、正しく読めるかどうか心配になって、思わず声を細めてしまう漢字ってありませんか? サライ世代ともなりますと、いったん思い込み認知をしておりますと、なかなかイニシャライズ(初期化)が難しいですよね。

簡単な漢字であっても、脳トレ漢字の記事を読みながら確認学習をしていただくことで、思い込み認知をイニシャライズできる機会になると思います。「脳トレ漢字」第194回は、「花押」をご紹介します。サインの一種である「花押」。10世紀頃から始まり、現在でも使われることがあります。

実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。

「花押」とは何とよむ?

「花押」の読み方をご存知でしょうか? 「はなおし」ではなく……

正解は……
「かおう」です。

『小学館デジタル大辞泉』では、「文書の末尾などに書く署名の一種」と説明されています。唐代の中国で生まれたとされる「花押」。日本には10世紀初期に伝来したとされ、承平3年(933)の坂上経行(さかのうえの・つねゆき)の花押が初見と考えられています。

自署の代わりとして使われていた花押ですが、平安時代末期になると実名の下に書かれるようになり、印章のように彫って押すタイプのものも誕生したそうです。また、花押は時代によって変遷していきました。

中世には草名(実名の草書体をさらに図案化したもの)や、二合体(実名の漢字の一部を組み合わせたもの)が主流となり、江戸時代には明朝体が最も一般的な形だったと考えられています。

「花押」の漢字の由来は?

本人確認の際に使用される「花押」。「押」は署名のことを意味し、「花のように美しい署名」という意味から「花押」と表記されるようになったそうです。また、花が咲いたように見えるからという説もあります。

武家社会と「花押」

花押は元々、自署を簡略化させたものであり、自署の代用と見なされていました。そのため、花押を書く際には実名を書かないのが原則だったそうです。しかし、中世以降、文書を他人に代筆させる風潮が武士の間で広まり、代筆者が差出人の実名まで書いて、本来の差出人が花押を記すスタイルが一般的になりました。

そのようなこともあり、花押は本人である証として重視され、差出人の人格そのものを表していると考えられるようになったのです。また、同族や家臣団などの花押は類似性が強く、鎌倉幕府の執権・北条氏や、足利尊氏の花押を原型とする足利様(あしかがよう)を使用した足利将軍家などが、好例として挙げられます。

戦国時代に入ると、花押の使用人口が増加したこともあり、様々な形の花押が誕生しました。実名の「長氏」を組み合わせて反転させた北条早雲(そううん)や、「長」の字を右に倒した浅井長政(あざい・ながまさ)の花押に見られるように、文字の転倒や裏返しも、この時代から頻繁に行われるようになります。

また、平和の世に出現すると伝えられる麒麟(きりん)の字をベースにした織田信長の花押など、実名ではない願望や信念を形様化する風潮も強まりました。様々な願いが込められた花押が多く見られることから、当時の武将たちが花押を非常に大切なものであると考えていたことが分かります。

***

いかがでしたか? 今回の「花押」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 現在でも、閣議書類などで使われている「花押」。時代や階層によって、様々な種類のものが使用されていたことが分かりました。

戦国武将の花押は現存しているものが多いため、調べていただくとさらに面白くなるかもしれません。

文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB

 

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