源高明が失脚した安和の変
A:詮子(演・吉田羊)が後見していた源明子の父源高明は、醍醐天皇の第十皇子になります。左大臣として権勢をふるいますが、安和2年(969)に失脚します。この時期すでに藤原摂関家との関係を強化していた清和源氏の源満仲らに密告されたといわれています。
I:いったい何があったのでしょうか。
A:時代は第62代村上天皇の頃にさかのぼります(一条天皇は第66代)。村上天皇の中宮は藤原師輔の長女の藤原安子。藤原兼家(演・段田安則)の姉になります。村上天皇と安子の間には、憲平親王(後の冷泉天皇)、為平親王、守平親王(後の円融天皇=演・坂東巳之助)の3人の皇子が誕生していました。
I:なるほど。
A:『栄花物語』によると、3人の皇子の中で、帝と中宮安子が寵愛していたのが四の宮の為平親王だったといいます。『栄花物語』には「かかるほどに、后宮も帝も、四の宮をかぎりなきものに思ひ聞こえさせたまひければ(中宮も帝も為平親王をこのうえなく可愛くお思い申しておられた)」と記されています。当時の上級貴族はこぞって娘を為平親王に嫁がせたいと希望したそうですが、選ばれたのが源高明の娘になります。
I:はい。
A:藤原一族からすれば、帝と中宮お気に入りの為平親王が立太子し、やがて即位して、源高明が外祖父として権勢を振るうようになったら困る、という考えに至るわけです。そうこうするうちに為平親王の外祖父藤原師輔、村上帝、中宮安子が相次いで亡くなります。
I:なるほど。そこで為平親王の弟の守平親王が皇太子になるわけですね。
A:そして、清和源氏の祖・源満仲らの讒言によって源高明は左遷されるという流れになるわけです。
第1回で登場した「こうめいのおとど」
A:ということで、高明は大宰府に左遷され、当時まだ幼かった娘の明子も同行したといいます。
I: 大宰府に左遷というと、左大臣菅原道真のことを思い出します。
A:道真は生涯都に戻ることはなかったわけですが、高明は不遇な生涯とはいえ、京都に戻って亡くなりました。ちなみに『光る君へ』第1回で散楽の演題で「こうめいのおとど」と表現されていたのが源高明のことになります。
I:その高明の娘と道長との縁談が進められるわけです。劇中では、明子の異母兄の源俊賢(演・本田大輔)も登場しました。藤原公任(演・町田啓太)、斉信(演・金田哲)、行成(演・渡辺大知)と並んで「四納言」と称された俊才、醍醐天皇の孫にあたる人物です。びっくりしたのは、明子が兼家に対する恨みを開陳したことです。
A:前述のように明子の父高明の失脚は、藤原氏の陰謀だったともいわれますが、この時兼家が陰謀の先頭に立っていたかどうかは判然としません。逆恨みのようなものですが、「藤原一族が許せない」ということでしたら、現在のトップの兼家を恨むのも首肯できるでしょう。現実には当時の明子は皇太后詮子が庇護する形でしたし、俊賢も兼家が庇護していたのですから、本来ふたりは兼家には頭が上がらない立場であることを付記しておきましょう。
I:かつて、失脚させた源高明の娘明子と道長の縁談を進めたということで、源高明の鎮魂の意味があったのかもしれないですね。にもかかわらず、明子は兼家への恨みをはらそうと試みます。いったいどうなっていくのでしょうか。宇多源氏の源倫子、醍醐源氏の源明子、そして藤原北家傍流のまひろ(演・吉高由里子)。藤原道長をめぐる恋愛模様の展開が気になります。
A:道長ってきっとイケメンだったのでしょう。きっと。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり