仕事は、単に給料のためではなく、自分自身を定義づけるという側面が大きいものです。であればこそ、その仕事から身を引く=引退することによって失われるのは、社会的役割による自己イメージです。自分を定義していた自己イメージがなくなることによって、引退後に大きな喪失感を味わったり自信を喪失したりするのです。
では、引退後の役割の変化にどう対応すればいいのでしょうか? 今回は、米国カリフォルニア州立大学・心理学部教授のケネス・S・シュルツ氏監修の『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を参考に、引退後に新たな自分を発見するためにすべき4つの行動についてご紹介します。
■1:新たな役割を担う
引退後の変化に対応するには、良好な社会的な繋がりを築いておくことが何より重要です。家族や友人、団体活動などいくつかありますが、それらの中で自分が何かの役割を担うようにしましょう。それも一つの集団に集中するのではなく、様々な繋がりの中で自己イメージを持つほうが得策です。
仕事でリーダーシップを発揮していたような人であれば、仕事以外の場でも指導的な立場に居られるような役割を得て、新しい自分を作っていきましょう。
■2:遊びの気持ちを持って挑戦する
次は、遊び心を持って新しい何かに挑戦することです。趣味の世界で競争したり、新しい遊びの世界に触れることは、新しい自分を見つけるのに大いに役立ちます。
できるだけ心を柔軟にして、多くの刺激を得るように心がけましょう。これまでの自分を超える目指すべきものが見つかるかもしれません。
■3:創造的なことをする
偉大なアーティストになる必要はありません。創造性を発揮することを何かやってみましょう。
たとえアマチュアの趣味の範疇でも、音楽家や工芸作家というクリエイティブな肩書きを持つことは、あなたにとって大きな自信になります。それはつまり、楽しみながら長く続けられる得意領域を持つことにほかなりません。
■4:学び続ける
生涯学び続けることは、常に自分を作り変えていくことでもあります。新しいことに興味を持ち、知識を得ることで、いつも新鮮な自分に出会うことができます。
これまで仕事に関わる知識だけに偏っていた人は、意識して仕事以外の学びの機会を取り入れるようにしましょう。大学の公開講座やカルチャーセンターに通うのでも、通信教育を始めてみるのでも、書店や図書館で本を読むだけでもよいのです。
大事なのは、仕事の世界から一歩踏み出して、全く別の見方で世界を見てみることです。世界の見え方が変わると、気分が一新され、引退後の動揺も落ち着かせてくれます。
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以上、引退後に新しい自分を確立するために行いたい4つのことを見てきました。
仕事による自己像は人間心理の核なので、引退後にあっさりと新しい自分になることは思ったよりも難しいことです。それは、これまで仕事が好きだったか、嫌いだったかにもあまり関わりがないのです。
米国の調査では、仕事への愛着度と引退後の満足度は関連しないことが明らかとなっています。むしろ「自分=仕事」という人ほど、引退後の幸福度が高まるという結果もあるそうです。これについて研究家は、仕事上で確固たる役割定義を持っていた人は、引退後にも同じように新しい役割を見つけて充足することができるからではないかと指摘しています。
引退後にどのように自分を再定義していくか、引退前から4つの方策について準備をしておけば、長きに渡る喪失感を軽減することができるでしょう。
【参考文献】
『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』
(S・シュルツ監修、藤井留美 訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/16/010500050/
文/庄司真紀