文・絵/牧野良幸

脚本家の山田太一さんが11月に亡くなられた。そこで今回は特別編としてテレビドラマ、山田太一さんの原作・脚本による『ふぞろいの林檎たち』を取り上げてみたい。1983年に放送され人気となり、その後続編がパートIVまで制作された。

『ふぞろいの林檎たち』は架空の私立大学に通う大学生たちを主人公にした青春ドラマだ。“ふぞろいの林檎”とは規格外の林檎、つまり落ちこぼれの意味だという。今ならふぞろいは個性的とも見る時代だが、山田太一さんはそれも行間に込めていたかもしれない。

しかし僕はこのドラマを当時見ていない。ドラマが放送された1983年は貧乏生活をしていたのでテレビを持っていなかったのだ。

ちょっと自分のことを書かせてもらうと、僕は1980年に大学を卒業したものの、画家になりたいという夢を抑えることができず就職しなかった。いわば僕も“ふぞろいの林檎”だったわけだが、ドラマと違うのは学歴社会や世間体のせいではなく、自ら選んでそうなったというところ。

すぐに画家を目指して上京。しばらくバイトをしていたが、イラストで食えたらと思いついて出版社に売り込みに行った。幸いにも小学館の雑誌『GORO』の編集者に気に入ってもらい、初めて仕事をもらった(「女子大生体験告白小説」という読み物の挿絵だった)。

それがちょうど『ふぞろいの林檎たち』が放送された1983年のことだ。このエッセイを書くためにDVDを見たけれど、東京の街の風景やファッション、ラジカセ、公衆電話など当時が思い出されて懐かしい。新宿の超高層ビルは都会の象徴で、僕も漫画家志望の友だちと新宿をうろついたものだ。

ドラマのタイトルバックはその新宿の超高層ビルから始まる。主題歌はサザンオールスターズの「いとしのエリー」。劇中でもサザンの曲が使われている。

ここは国際工業大学。3人の学生が掲示板の前でたむろしている。

3人が話すのは勉強のことではなく女のコのことである。彼らは早稲田や上智の学生が、一流大学というだけで女子大生にモテることがうらやましい。そこで自分たちもサークルを作って女子大生を集めようと計画する。

「国際工業大学でオンナが来るかよ!?」

と実(柳沢慎吾)。ひがみ屋で見栄っ張りだ。

「黙ってろ」

と自信があるのが健一(時任三郎)である。自分を卑下せず行動力がある。

そして二人の後をついていくのが良雄(中井貴一)。いつも相手を思いやる優しさを持つ。

若き中井貴一と時任三郎はカッコいい。僕など、この二人なら女のコがたくさん集まるでしょう、とひがんでしまうわけだが、山田太一はイケメンにも楽な人生は与えない。チラシを配ったものの、会場に女のコはいなかった。

ようやくやって来たのが容姿にコンプレックスを持つ綾子(中島唱子)。そして有名女子大を名乗る陽子(手塚理美)と晴江(石原真理子)だ。

3人が夢中になるのは陽子と晴江なのだが、実は二人は看護学生だった。彼女たちは、看護学生が女子大生にくらべて男から下に見られることを悔しく思い、仕返しのつもりで3人をだましたのだった。彼女たちもまた“ふぞろいの林檎”ということになる。

これに山田太一は女子大生の夏恵(高橋ひとみ)と東大卒の修一(国広富之)を加える。ずらりと並んだ俳優を見てトレンディドラマかと勘違いしてしまいそうだが社会派ドラマである。

彼らの悩みは深刻だ。一部を書いてみる。

優しい良雄は風俗店で出会った夏恵にひかれ、彼女を普通の女子大生に戻そうとする。夏恵は自分に気がないことがわかっているのに、だ。家では母親(佐々木すみ江)が兄(小林薫)の嫁(根岸季衣)をいびるのに悩まされる。

行動力のある健一はどうか。一流企業の内定をもらうが、それも怪しくなる。つきあいだした陽子は優等生タイプで喧嘩が絶えない。さらに親が学歴重視のため冷たくあしらわれる。こちらもかなり深刻だ。

他の“林檎たち”もそれぞれに悩みを抱えている。ドラマでは互いに相談をしたり不満をぶちまけたりするシーンが多い。相手を思いやったり、批判したり、からかったりして会話はさまざまだが、ひとつひとつのセリフが濃い。どのやりとりにも山田太一の思いが込められているような気がする。

それにしても、まわりの大人も問題ありだと思う。ドラマだから嫌われ役を作る必要があるだろうが、大人たちが辛辣である。

良雄の母親は嫁いびり。健一の両親は学歴と就職先で息子の価値を決める。大人たちの仕打ちは『おしん(https://serai.jp/hobby/1033002)』を見ているようで、普通のドラマならギスギスした場面になるはずだが、サザンの曲が流れるせいで哀愁を帯びたシーンになる。

でも大人とはそんなものかもしれない。健一の両親は息子が一流会社の内定をもらうと手のひらを返したように喜ぶが、僕も似たような経験がある。初めて『GORO』にイラストが載った時、雑誌を見た親はやはり嬉しかったのだろう、以後「地元に帰ってこい」という小言を言わなくなった。雑誌に一回イラストが載っただけで、ずいぶん変わるものだなあと驚いた。

まあ僕の場合はいい方に変ってくれて親に感謝なわけだが、じゃあお前は世間体を気にしない大人になったかと問われれば、まったく自信がない。中華料理屋を営む柳沢慎吾扮する実の両親には「大変ですねえ」と声をかけたくなる。

もちろん山田太一は“林檎たち”を突き放していない。最終話では、大人はどうあれ、それぞれが前向きに生きようとする。ドラマの初回で自分たちを卑下していた良雄、健一、実も成長した。3人は就職説明会で、東大や早稲田の学生と違う部屋に座らされても堂々としている。

「胸を張ってるんだ。問題は生き方よ」

「うん」

バックに流れる「いとしのエリー」が最後まで泣かせる。

山田太一さんが亡くなったから余計にそう思うのかもしれないが、映像を通して脚本が浮かぶようなドラマだ。

【今日の面白すぎる日本映画】
テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』
1983年5月27日~7月29日(全10回)
放送日:毎週金曜日22:00 – 22:54(TBS系列「金曜ドラマ」枠)
原作:山田太一
脚本:山田太一
演出:鴨下信一、井下靖央ほか
出演:中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、手塚理美、石原真理子、中島唱子、
高橋ひとみ、国広富之、ほか
主題歌:サザンオールスターズ「いとしのエリー」

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

『オーディオ小僧のアナログ放浪記』
シーディージャーナル

 


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