渡辺守綱は家康9男義直の後見人として参陣
I:家康家臣団のひとりだった渡辺守綱(演・木村昴)が大坂の陣に参戦していました。この時点で四天王(酒井忠次、井伊直政、榊原康政、本多忠勝)はみな、亡くなっていますが守綱は長寿だったんですね。
A: 三河一向一揆では一揆側についた渡辺守綱は、家康9男で御三家の尾張藩主となる義直の後見人として大坂の陣に参陣していたわけです。平岩七之助親吉(演・岡部大)も義直付きでしたが、このころはすでに鬼籍に入っていました。
I:大坂の陣では、家康家臣団の本多忠勝(演・山田裕貴)の孫忠刻、井伊直政(演・板垣李光人)の次男直孝、酒井忠次(演・大森南朋)の息子家次、孫忠勝、榊原康政(演・杉野遥亮)の三男康勝が参陣しています。それぞれ子供だけではなく孫まで参陣していたんですよね。
A:家康次男秀康(演・岐洲匠)の嫡男松平忠直も参陣しています。真田丸の存在に手痛い敗戦を喫したりしましたが、最終的に真田信繁(演・日向亘)を討ち取ったのは忠直の軍です。大坂の陣で軍功をあげた「家康の孫」松平忠直ですが、戦後は家康の9男~11男の義直、頼宣、頼房らとの待遇の違いに不満を募らせていくという形になります。
I:徐々に秀忠(演・森崎ウィン)家臣団が幅をきかせてくる形になりますからね。本多正純などの扱いを見ても、「先代の古参家臣が疎ましくなる2代目」というのは本作で描かれることはないでしょうが、気にはなりますね。
いよいよ始まる大坂の陣
I:大坂冬の陣では、豊臣方についた武将らが紹介されました。
A:関ヶ原合戦で西軍について敗軍の将となった面々ですね。土佐の長宗我部盛親(演・日野蜂三)、古くから秀吉に仕えた毛利吉政(勝永とも/演・菅原卓磨)、大谷刑部の息子吉治(演・東山龍平)、黒田官兵衞の家臣で出奔していた後藤又兵衛(演・蔵原健)、宇喜多秀家家臣で信心深いキリシタンだった明石掃部全登(演・小島久人)。さらには真田昌幸(演・佐藤浩市)次男の真田信繁などが劇中で紹介されました。
I:並べて見ると錚々たる強そうな面々ばかりですね。
A:こういうシーン、小学生とか中学生とか少年の心には突き刺さることがあるんですよね。私も1979年の『草燃える』の序盤で平家方だった武将らが続々と源頼朝にはせ参じるという第8回のシーンがいまだに心に残っていますから。
I:さて、そうした中で織田信雄(演・浜野謙太)が出家して常真の名で登場しました。信長(演・岡田准一)の次男で世が世であればという立場の人物ですが、尾張から三河・遠江・駿河・甲斐・信濃の5か国への移封を拒絶したために改易された人物です。ただし、長命を保ったということでいえば、今川氏真(演・溝端淳平)同様に「それはそれで幸せだったのかな」という人物ですね。
A:江戸時代に大名家として残った織田家は信長の弟織田有楽斎の家系と信雄の家系のみとなります。『信長全史』を編集した際には柏原藩織田家の当主の織田信孝さんに取材しました。
I:そして私が印象深かったのが信長の娘で家康嫡男信康(演・細田佳央太)に嫁いでいた五徳(演・久保史緒里)の名が登場したことです。織田常真を匿ったということで家康と阿茶(演・松本若菜)とのやり取りの中で台詞の中だけの登場でしたが。
A:夫である松平信康、父である織田信長が亡くなって30年以上経っていますが、五徳は京都で健在でした。どのような日々を過ごしていたのかは定かではありませんが、劇中で触れてくれるのは感慨深いというか、粋な計らいですよね。家康からすれば嫡男の妻。実際にその消息を気にかけていたのでしょう。
I:そう思うとなんだか胸に迫ってきますね。五徳もまた戦国の荒波に翻弄された女性ということになるのでしょう。彼女が京都で亡くなるのは大坂の陣からさらに20年ほど経った寛永13年(1636)。享年78。夫の死から半世紀以上、すでに3代将軍家光の時代でした。
A:ちなみに織田常真(信雄)も寛永7年(1630)まで長命を保ちました。本能寺の変から48年。激動の人生だったといっていいのでしょう。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり