ライターI(以下I): 第38回で秀吉(演・ムロツヨシ)が家康(演・松本潤)に対し、家康の家臣団の存在がうらやましいと心情吐露した場面がありました。私はこの場面がものすごく印象に残っていたのですが、今週の石田三成(演・中村七之助)や加藤清正(演・淵上泰史)のやり取りを見て、秀吉の思いが痛いほど伝わってきました。
編集者A(以下A):軽輩から身を興した秀吉には股肱の臣がいませんでした。その家臣の多くが自身の出世の過程で引き入れた人材。家康家臣団のように何代にもわたって従ってきた存在ではないですからね。
I:加藤清正、福島正則(演・深水元基)は秀吉実母の仲(大政所/演・高畑淳子)側の縁戚関係から取り立てたのですよね。秀吉正室寧々(演・和久井映見)の妹の夫である浅野長政(演・濱津隆之)もいました。
A:秀吉亡きあとは毛利輝元(演・吹越満)、上杉景勝(演・津田寛治)など信長、秀吉などとやり合った過去のある武将らとともに秀吉の盟友ともいえる前田利家(演・宅麻伸)、秀吉の養子でもある宇喜多秀家(演・柳俊太郎)の4名が家康とともに五大老という位置づけになりました。
I:五奉行とあわせて「秀頼殿の10人」というところでしょうか。劇中では「万事話し合い」でまつりごとを進めていきたいという三成の考えに対して毛利輝元が〈格別な力を持つひとりがいればおのずとそのひとりが決めていくことになろう〉と忠告します。
A:ところが三成は家康を念頭に〈あのお方にそのような野心はないと存じまする〉と一蹴します。
I:毛利輝元が〈そなたは頭がきれるが人心を読むことには長けておらぬ〉と三成の甘さを指摘し、上杉景勝が〈徳川殿は狸と心得ておくがよい〉と進言しました。毛利の発言はともかく、徳川殿は狸だというほどのエピソードにまだ触れていないような気もするのですが(笑)。
石田三成という男
I: そのようなやり取りを経て、朝鮮に出陣していた武将らが帰国します。出迎えた三成が言ってはいけない発言をしてしまいます。
A:〈戦のしくじりの責めは不問といたします〉と言い放ってしまいました。実際に朝鮮での戦況について現地軍を讒言するようなこともあったと伝えられていますから、古典的な三成描写。頭が切れるとはいっても、正論を吐き、融通が効かない。しかも上(秀吉)にはへつらい、同輩、軽輩には上から目線というのでは、人望面に難ありということなのでしょう。
I:私も劇中で描かれているような三成はちょっといやですね。俗に文治派と武闘派の対立とか、「知恵働き」と「槍働き」の対立と表現されたりしますが、現代でもそういう対立がありますよね。
A:現代でも体育会系、非体育会系が混在する組織ですとか、オペレーションが難しそうです。わかりやすい事例ですと警視庁なんかは幹部の多くは警察庁から送られるキャリア官僚。知恵働きの面々が槍働きの現場を指揮下に置くという構図です。
I:霞が関に代表されるお役所はそういうの多いですよね。
A:第38回で室町幕府最後の将軍足利義昭が登場した際に「義昭がもう少し信長とうまくやっていたら、義昭の人生も日本の歴史も変わっていたでしょう」という話を当欄でしましたが、石田三成、加藤清正、福島正則らがもう少し仲良くしてくれたら、家康が果たして天下を取れただろうかと思うのですよね。
I:秀吉は無我夢中、がむしゃらに天下を獲るために動いていた感があります。ノリと勢いで進んできて、家臣団の人間関係に思いを至らせることがなかったのかもしれないですね。「人たらし」のくせに、そこがなぜか詰めが甘いような。
A:組織内で発生する不満の大半は「人事」と「人間関係」といわれていますが、亀裂の入った豊臣家臣団をうまく利用したというか、篭絡したのが家康ということになりますね。追々話題になると思いますが、秀吉家臣団=豊臣恩顧の大名らの行く末にも注目ですね。
I:人間関係といえば、伊達政宗と浅野長政の仲違いに端を発した伊達家と浅野家の絶交(不通)もこの頃のことですよね。
A:両家の和解は平成に入ってからという長期の絶交でした。ちなみに赤穂事件の際には、東山天皇の勅使饗応役を務めたのが浅野内匠頭長矩。霊元上皇の院使饗応役を務めたのが宇和島藩支藩の伊予吉田藩主の伊達村豊。分家同士とはいえ因縁の両家というエピソードもあります。
I:内匠頭が浅野長政の玄孫。伊達村豊が政宗のひ孫になるのですよね。
A:その伊達政宗ですが、本作では今のところ台詞のみの登場になっています。
【松平信康と五徳の間に生まれた娘たちのその後。次ページに続きます】