はじめに-一橋(徳川)慶喜とはどんな人物だったのか?

一橋慶喜(ひとつばし・よしのぶ)は、水戸藩主・徳川斉昭(なりあき)の子で、江戸幕府最後の将軍です。将軍継嗣問題が発生した際、次期将軍候補として名が挙げられるも、結局このときは将軍になることのできなかった慶喜。彼自身は将軍職に就くことを躊躇(ためら)っていたそうですが、その後、15代将軍として幕政の頂点に立つことになります。

討幕軍の勢力が拡大し、幕府の立場がなくなっていく中で、将軍職を継いだ慶喜。激動の時代に翻弄され続けた人生を送っていたように思えますが、実際の一橋慶喜はどのような人物だったのでしょうか? 史実をベースにしながら、紐解いていきましょう。

2023年NHKドラマ10『大奥 Season2』では、家茂を補佐するために将軍後見職に就き、後に15代将軍になる一橋家の当主(演:大東駿介)として描かれます。

征夷大将軍在任時の徳川慶喜

目次
はじめに-一橋(徳川)慶喜とはどんな人物だったのか?
一橋(徳川)慶喜が生きた時代
一橋(徳川)慶喜の足跡と主な出来事
まとめ

一橋(徳川)慶喜が生きた時代

一橋慶喜は、天保8年(1837)に生まれます。慶喜が生まれる前年には、「天保の大飢饉」と呼ばれる未曾有の飢饉が発生し、全国規模で餓死者が続出してしまいます。幕府は、十分な政策を打ち立てることができず、民衆の不満が爆発。各地で打ちこわしや騒動が頻発しました。

慶喜が生まれた頃から、すでに幕府の雲行きは怪しくなっていたのです。

一橋(徳川)慶喜の足跡と主な出来事

一橋慶喜は、天保8年(1837)に生まれ、大正2年(1913)に没しました。その生涯を、出来事とともに紐解いていきましょう。

徳川斉昭の子として生まれる、将軍継嗣問題に巻き込まれる

一橋慶喜は、天保8年(1837)、水戸藩主・徳川斉昭の子として生まれました。幼名は七郎麿(ひちろうまろ)で、弘化4年(1847)に一橋家を相続した際、慶喜という名に改名します。慶喜が一橋家の当主となった数年後、アメリカの軍人・ペリー率いる黒船が浦賀に来航しました。

大きな外国船が停泊したことで、日本中に衝撃が走ります。さらに、時の将軍・家定(いえさだ)は病弱で、跡継ぎの子どもに恵まれませんでした。そのため、将軍継嗣が重大な政治問題となり、外国の脅威にも立ち向かえるような、強い指導者を求める声が強まったのです。

慶喜は幼少の頃から頭脳明晰だったため、次期将軍候補として支持されることになります。そして、徳川御三家の紀州藩藩主・徳川慶福(よしとみ、後の家茂)も、次期将軍候補として名が挙げられました。慶喜を支持する一橋派と、慶福を支持する南紀派は、次期将軍の座を巡って激しく争うことに。

しかし、彦根藩主であり、南紀派の筆頭でもある井伊直弼(なおすけ)が大老に就任したことで、慶福が14代将軍になることが決定します。こうして、慶福は名を家茂と改めて将軍職に就き、一橋派の計画は頓挫してしまったのです。

謹慎させられるも、将軍後見職に就任

安政5年(1858)、13代将軍・家定の命で大老に就任した井伊直弼は、朝廷の勅許を待たずに日米修好通商条約に調印してしまいます。独断で家茂を将軍職に就けたこともあり、一橋派の筆頭・徳川斉昭や、尾張藩主・徳川慶勝(よしかつ)は、直弼の勝手な行動に憤り、彼を詰問するために無断で江戸城に登城しました。

これは不時登城と呼ばれ、当時は固く禁じられた違反行為の一つでした。そのため、不時登城に関わった中心人物たちには、急度慎(きっとつつしみ、完全外出禁止)という、厳しい処罰が下されることとなったのです。また、彼らに連れていかれる形で慶喜も不時登城していたため、当分の間は謹慎することとなりました。

一橋派にとっては、屈辱的な事件とも言えますが、万延元年(1860)、「桜田門外の変」で直弼が暗殺されたことで、事態は急変します。慶喜は、宥和方針に転じた幕府から謹慎を解かれ、将軍後見職として家茂を補佐することを命じられたのです。

同じく将軍の補佐役である政事総裁職には、不時登城で謹慎処分を下された福井藩主・松平慶永(よしなが)が抜擢されます。慶喜は、慶永とともに幕政の改革に取り組むこととなりました。

桜田門外の変を描いた錦絵(月岡芳年画)

15代将軍になる。次ページに続きます

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