「天保の大飢饉」発生、幕府への不満が最高潮に

「大御所時代」と呼ばれる、豪華絢爛な家斉の政治によって幕府の財政は困窮化し、治安は悪化の一途をたどりました。そのような不安定な状況で、「天保の大飢饉」が発生してしまったのです。天保4年(1833)に発生した洪水や冷害による大凶作が原因とされ、東北地方を中心に甚大な被害がもたらされました。

多くの人々が餓死していく中で、幕府は有効な対策を打てず、民衆の不満は最高潮に達します。百姓一揆や打ちこわしが頻発し、天保8年(1837)には、元与力の大塩平八郎(おおしお・へいはちろう)が、幕府に対する反乱を起こしました。

幕府関係者とも言える大塩平八郎による反乱は、幕府に大きな衝撃を与えたと言えるでしょう。財政難により腐敗しきった幕府は、破滅へと向かっていったのです。

天保の大飢饉の際、小屋に収容されて保護を受ける罹災民が描かれたもの。
モリソン号 
天保8年(1837)、日本人漂流民を乗せたアメリカの商船・モリソン号を砲撃した「モリソン号事件」は、幕府内外からの非難が集中した。この頃から、幕府の海防に対する不安も高まっていったと言える。

長期政権を築いた家斉の功績

「大塩平八郎の乱」が発生した年、家斉は将軍職を次男・家慶(いえよし)に譲ります。しかし、天保12年(1841)に69年の生涯に幕を閉じるまで、大御所として実権を握り続けました。幕府の財政を破綻させたと非難されることが多い家斉ですが、華やかな町人文化である「化政文化」を生み出すという功績も残しています。

化政文化では、皮肉・風刺を盛り込んだ滑稽本や人情本が人気を博し、歌舞伎や浄瑠璃、浮世絵なども盛んに制作されました。葛飾北斎や歌川広重、東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく)などが、浮世絵師として活躍したのも、化政文化の時代にあたります。

文学では、庶民生活を面白おかしく描いた、十返舎一九(じっぺんしゃ・いっく)の『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』や、曲亭馬琴(きょくてい・ばきん)による長編小説『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』が流行しました。化政文化は、江戸時代における町人文化の最盛期とも言われ、不安定な幕末へと向かっていくまでの、幕府のささやかな煌めきとも言えるかもしれません。

富嶽三十六景『神奈川沖浪裏』(葛飾北斎画)
『東海道中膝栗毛』のエピソードを描いた錦絵

まとめ

倹約政治から一転、贅沢三昧な生活で幕政を混乱させた徳川家斉。彼の贅沢によって、幕府の財政は大きく傾いたため、政治面では愚将という評価になるのも無理はないかもしれません。しかし、江戸時代で一番華やかだったとされる「化政文化」を生み出した家斉には、一概に愚将とは言えない魅力があるのではないでしょうか?

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP: http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『山川日本史小辞典』(山川出版社)
『日本人名大辞典』(講談社)

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