出奔した数正(演・松重豊)。(C)NHK

ライターI(以下I):『どうする家康』第34回では、家康(演・松本潤)のもとから家康が若いころからの側近である石川数正(演・松重豊)が出奔したことをメインに描かれました。

編集者A(以下A):劇中では、数正が残した仏像から押し花が見つかり、その押し花がかつて瀬名(演・有村架純)が精魂込めて作り上げた草花の咲き誇る庭園由来のものだとわかり、数正の出奔は、戦のない世にするために敢えて、秀吉(演・ムロツヨシ)のもとに渡ったという風に描かれました。なるほど、そういう解釈もありかも、というくらい数正出奔は「家康の謎」のベスト3に入るくらいのトピックスです。

I:ということで、その謎について、その後の石川家の行く末を踏まえながら検証したいと思います。秀吉の家臣となった数正は、信州松本に領地を得ます。現存12天守で、さらに国宝でもある松本城を普請したのは数正とその嫡男康長です。

A:西の姫路城に伍して東の松本城として君臨する天下の名城ですね。『どうする家康』的な感覚でいうと、平地に築かれた「戦のない世」を体現したかのような佇まいです。

I:劇中では、家康家臣団が「あほたわけ」などと罵りながらも、戦を回避するための出奔だったと悟って、皆涙を流すという設定でした。大河ドラマは壮大なるエンターテインメントですから、そのような設定もありですよね。

A:数正は文禄2年(1593)に亡くなったといわれ、嫡男石川康長が後継者になります。康長は、数正の死後に起こった関ヶ原の合戦の際、東軍に属し(徳川秀忠の上田城攻めに参加)、本領を安堵されます。ところが、大久保長安事件に連座する形で改易されてしまいます。

A:大久保長安は武田家の遺臣で家康に抜擢されて、佐渡金山の経営など膨大な所領の管理を任された能吏。死後に不正蓄財を疑われて、7人いた長安の息子たちが全員切腹を命じられたという家康晩年に起きた大事件です。石川数正の嫡男康長に加え、次男康勝、三男康次は事件に連座したとして全員改易されています。このうち次男の康次は大坂の陣で豊臣家側についてしまいます。

I:もし、『どうする家康』で描かれたように石川数正の出奔が「戦なき世を実現させるための」だったとしたら、その嫡男石川康長らが、家康存命の段階で改易されるだろうか、ということですよね?

A:そうです。家康の四天王と称される酒井左衛門尉忠次(演・大森南朋)の酒井家は庄内藩主として幕末を迎え、会津藩とともに最後まで徳川家のために戦いました。井伊直政(演・板垣李光人)の井伊家は彦根藩主として幕末には大老井伊直弼を出します。本多平八郎忠勝(演・山田裕貴)の本多家はなんと十回以上も転封を強いられ、最後は故地である岡崎藩主として幕末を迎えます。榊原康政(演・杉野遥亮)の榊原家は、康政嫡男の康勝が継嗣無きまま没したので改易の危機だったのですが、家康のとりなしで家名は存続することになりました。以降幾度も改易の危機があったそうですが、家祖康政の功績が考慮され、改易だけは免れ、幕末には上越高田藩主として会津戦争で敗れた会津藩士らを預かることになります。

I: なるほど。ということは、もし石川数正の出奔が、劇中で描かれたようなストーリーならば、数正の嫡男を改易しなかったのではないかというふうに考えているのですね。むしろ、「大久保長安事件連座」という理由をつけて改易したとも受け取れます。

A:そんなことを考えていて、ふと歴代大河ドラマで2番目に視聴率のよかった『武田信玄』(1988年)のことを連想しました。『武田信玄』の原作は新田次郎さんの同名小説で、もともと『歴史読本』で連載された作品。『歴史読本』では『続武田信玄』と題した連載が続きました。こちらは武田勝頼をメインに据えたものです。

I:同作を原作に武田勝頼を主人公にした作品も見てみたいですね。

A:それはもちろんそうなんですが、『続武田信玄』終了後に『大久保長安』の連載を始めますが、連載開始からまもなく新田次郎さんが亡くなって未完となってしまいます。1980年2月のことです。もし、『大久保長安』が完成していたら、事件の全貌に迫っていたのではないか、石川数正の息子たちの改易についても真相が明かされたのではないかなどと想像してしまいました。

I:石川数正出奔のお話からずいぶん脱線してしまいました。

A:歴史にはたくさんの謎が残されていますね。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 


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