編集者A(以下A):過去の大河ドラマで木下藤吉郎→羽柴秀吉→豊臣秀吉を演じた俳優の中では緒形拳さん(『太閤記』『黄金の日日』)、西田敏行さん(『おんな太閤記』)、武田鉄矢さん(『徳川家康』)、仲村トオルさん(『信長 KING OF ZIPANGU』)、竹中直人さん(『秀吉』『軍師官兵衛』)などが思い浮かびます。
ライターI(以下I):そのほか、香川照之さん、岸谷五朗さん、佐々木蔵之介さんなどが、藤吉郎→秀吉を演じています。どの秀吉も懐かしいですね。
A:天下人になってからの秀吉を演じて圧倒的な存在感を示したのが勝新太郎さんです。『独眼竜政宗』で演じた豊臣秀吉はものすごくインパクトのある秀吉でした。伊達政宗が主人公ということで、藤吉郎時代は登場しないわけですが、「勝新藤吉郎」が実現していたらどういう藤吉郎だったんだろう? 『兵隊やくざ』のような藤吉郎だったんだろうか? と妄想したりするの、好きですね。
I:さて、そうした中で、『どうする家康』で藤吉郎→秀吉を演じているムロツヨシさんからコメントが寄せられました。
今作の秀吉の魅力は、野心だと思います。最初は信長様を助け、信長様の信頼を勝ち取ることが秀吉の〈生き様〉だったわけですが、それを全うしようとしていた中、信長様が突然いなくなる。それで秀吉は変わらざるを得なかったといいますか……。信長様がいなくなった現実を受け止めたときに、改めて自分の野心との向き合い方が変わってきたのかなと思います。〈信長様のために何ができるか〉という一途な思いから、野心へと変化していく。秀吉はどこまで前に出て行くのか……という今後の展開を今撮影しているところです。
I:当欄ではムロさんの藤吉郎初登場時に「こんな藤吉郎見たことない。早くも最高の秀吉になる予感」という記事を配信しました。(https://serai.jp/hobby/1111564)そのくらいインパクトのある登場でした。
A:織田家中の先輩である柴田勝家(演・吉原光夫)に蹴っ飛ばされたにもかかわらず、ニコニコと〈ありがとうごぜーますだ〉ですからね。家康家臣団もびっくりの場面でした。
I:私のようなフリーランスは、周囲にペコペコしてばっかりの新入社員が、どんどんたくましくなっていくのを生暖かく見守っていくというのが定番ですから、藤吉郎出世譚はいつも興味があります。さて、ムロさんのお話はさらに続きます。
秀吉は相当頭が良かったし、相当頭の悪いフリをしてきたなと。邪魔な者は敵対し、悪く言えばずるく、よく言えば計算高いことをして、周りが自分に盾つかないようにしていました。盾つく者がいれば、計算ずくで勝てる戦いをする。アホになって、皆の前でわちゃわちゃして、わざと冷静に考えている部分をひた隠している。ばれないようにピエロになる。その道化っぷりはある意味かっこいいですけど、あまり皆から好かれないピエロで……。それがまた面白いなと思っています。
A:計算高くピエロである。なかなか的確な「秀吉評」かなって思います。後年の赤穂藩家老大石内蔵助も「昼行燈」と評された時期があるといわれますし……。
I:昼行燈大石内蔵助とピエロ秀吉は違うような気もしますが、「能ある鷹は爪を隠す」とか世阿弥の「秘すれば花」とか、日本人ってそういうの好きですよね。さて、ムロさんのお話はまだ続きます。「秀吉がいちばん怖い」という視聴者の声をスタッフから聞かされた際の答えだそうです。
(ネットに)やっぱり書かれてるんですか? 明日から急に好かれる秀吉をやりますよ(笑)。エゴサーチはそんなにしませんが、「本当に大嫌い(褒め言葉)」という情報は、入ってくる入ってくる。〈ダークピエロ〉が天下を取ってごらんなさい、そんな時代怖いですよ……ということを皆さんに見て頂けたら嬉しいです。
A:ダークピエロって言葉、なんか胸に突き刺さりますね。確かに怖い時代なのかもしれません。豪放磊落(ごうほうらいらく)で思ったことをすぐ口に出してしまう人はけっこういて、面倒くさいんだけど御しやすいといえば御しやすいわけです。
I:発想が意外と単純ですからね。口は悪いけれどもわかりやすいっていう人はいますよね。これがまた憎めなくて、意外と人望がある。
A:一方で、本作でも信長が家康に対して〈腹が読めなくなってきた〉といっていた通り、真面目でしっかり仕事をこなすけれども腹の底では、何を考えているかわからないという人もいます。そして、世の中には権力を握ってはいけない気質の人もいるのが事実です。
I:権力を握ったとたん豹変する人っていますよね。こういう人、怖いです。ムロさんのいう「ダークピエロ」。いったいどんな人間ドラマが待ち構えているのでしょうか。
A:震えるような場面を期待したいですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり