全力で殿を守ろうとした服部半蔵(演・山田孝之)。(C)NHK

ライターI(以下I):大河ドラマは予算、人員、規模、歴史……どれをとっても当代随一のテレビドラマです。出演する俳優陣にとっても「矜持」が求められる稀有な枠だと思います。脚本や演出に多少の難があっても、絵面的に大河仕様にしてくれる手練れの美術スタッフ、VFX(ビジュアル・エフェクツ/視覚効果)など最新の技術を駆使して物語を展開するスタッフなど多くの人がかかわっています。

編集者A(以下A):はい。それを支えているのが大河ドラマファンの存在。当欄では幾度か言及していますが、大河ドラマファンにとっては作品の出来不出来は1年間の生活スタイルにかかわる「重要事項」……って、いったいあらたまってどうしたのですか。

I:『どうする家康』第29回では、徳川家康の「伊賀越え」が描かれました。劇中では、服部半蔵(演・山田孝之)の活躍がコミカル含みで描かれました。エンタメとしては、ものすごく面白い展開だったと思います。 この回にあわせて、NHKは、山田孝之さんからのコメントを配信しました。そのコメントを読んでいたら、やっぱり大河ってスケールが桁違いだなと感じましたし、山田さんの大河に挑む姿勢を感じることができて、なんだか涙が流れてきたのです。ですから、基本に立ち返って「大河とは何ぞや」ということを冒頭で開陳させていただきました。

A:なるほど。確かに第29回の「伊賀を越えろ!」はエンタメとして見たら面白い展開でした。半蔵が〈忍びという連中のことはわしがいちばんよう知っとります〉と言っていましたが、「あれ? いままで『わしは武士じゃ』って言ってたのでは?」とか、突っ込みながら楽しんで見ていました。

I:周りの忍びたちも半蔵の言葉を聞いて、顔を見合わせていたのがおかしかったですね。私は、半蔵や大鼠が伊賀に行ったことがないというくだりが面白かったです。山田孝之さんや松本まりかさんの表情が絶妙で笑っちゃいました。さて、前振りが長くなりましたが、山田孝之さんのコメントを紹介します。まずは、今回の伊賀越え任務についてです。

結果的に、半蔵の判断は全て裏目に出てしまいましたが……半蔵なりに、様々なパターンを想定して最善の策をとってきたつもりだったけれど、いつも以上に考えねばならないことが多い状況で、判断力が著しく低下していたのかなと思います。そして、手を差し伸べてくれる人のことも敵だと思い込んでしまい、自分だけを信じた結果でもあったのかなと。目の前のことでいっぱいになって余裕を無くし、周りを信じないとこういうことになりますよ……というのは、すごいメッセージ性だなと思いながら演じていました。

I:メッセージ性がある場面とは、心に染み入る話ですね。ともすればコミカルなお笑いシーンとも受け取られかねないシーンでしたが、山田さんのコメントに触れると、「ああ、そういうメッセージがあったのですね」とものすごく腑に落ちます。

A:歴史ドラマというのは、がっつりと視聴するとメッセージの塊の部分がありますからね。その受け止め方も人それぞれですし。

I:私が、山田さんのお話の中で感じ入ったのは、次のくだりです。伊賀の百地丹波(演・嶋田久作)に家康一行が捕らえられた場面です。

A:自分は伊賀出身の父親がいるからと、伊賀にやってきた半蔵ですが、実は伊賀に来たことがなかったことが露呈した場面でした。

I:なんだか笑っちゃう場面でした。そうした雰囲気にしてくれたのも山田さんの熱演のたまものだと感じました。では、山田さんのお話をどうぞ。

自分たちが牢屋に閉じ込められて手出しできない状態で、殿の首に刀を当てられるという絶体絶命の状況でした。「もう終わりだ……」と思ってしまいそうになるけれど、もちろん終わりにはしたくないから、その状況で自分がどう動くべきか。可能性は0.1%のみだったとしても、殿を救い出す術を必死に考えていただろうと思います。リハーサルの際、演出の方からは「殿が牢屋から連れ出される時、武器を持った敵が牢屋に入ってくるのを防ぐために、入口へ行って欲しい」と言われましたが、僕は全く逆だと思いました。まず門を自分では開けることができない中、敵が開けてくれて、しかも武器を持っている敵がひとりでも入って来てくれたらチャンスだなと。寧ろそれは招き入れるべきだろうと思いました。敵が入ってきた上でどう対応するかということなど、色々と考えながら、演出の方とも話をしました。

A:自分が実際にその立場に置かれたらどうするかということを、真剣に考えて演技に取り組んだということですね。さすがです。さらに山田さんは続けます。

でもあの状況は、自分の命が危うくなるよりも、もっと苦しい状況のように感じました。自分は忍びのような働きをしてきたから、そもそも死は覚悟している。考えていることとすれば、殿から受けた任務はやり遂げたい、服部党も含め、周りの人の命も出来るだけ守りたいということくらいだったのかなと。でも今回は、殿が目の前で殺されてしまうかもしれない、全てが終わってしまうかもしれない、という怖さがありました。服部党が皆して「わしが家康じゃ」と言い出すところは、ドラマで見るとコメディシーンに見えるかもしれないけれど、自分たちは殿を救うために全力で、とにかく必死でした。 第 24 回あたりから、精神的にはりつめていて、気持ち的にキツいシーンが続いた印象です。

A:確かに、このシーン、コメディパートだと思っていました。だって大鼠まで〈俺が家康じゃ〉と叫んでいましたから。でも、山田さんのこのお話を聞いて、「そうか、本気で家康を救おうと叫んでいたんだ」と、大河ドラマに出演する俳優の矜持というものを熱く感じました。少しでも疑問に思うシーンは、演出スタッフと徹底的に議論する。熱いですよね。
スタッフもスタッフで、現場の俳優から出た提案を一蹴することなく、真摯に話し合う。

当代きっての俳優の隠れエピソード。次ページに続きます

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