高品質の音響設備でレコードが刻む豊かな音楽を堪能する贅沢な時間……。日本独特の文化を心ゆくまで体験できる、東京の名店を紹介する。

初心者にもやさしい選曲

「ジャズはよくわからないが、かっこいい!」
 
50余年の歴史を誇る『ジャズ喫茶 いーぐる』の店主、後藤雅洋さん(75歳)は店を始めるときにこう思ったという。友人のロックバンドのマネージャーをしながら遊んでいた大学時代に、父親から店を開くよう促され、昭和42年(1967)に開店。ヤマハの渋谷店で200枚のアナログレコードと音響装置を、なんとか手形で購入し、さらにジャズに明るかった友人の茂木信三郎さんから200枚のレコードを借りて、営業を開始したという。

ウイスキー水割り(ワイルドターキー、ダブル)1500円、チリビーンズ750円。18時からはバータイムになり、会話も可能。

「当時、ジャズについては素人だったので、様々な視点や意見を素直に受け入れて、偏ることなく吸収できたのが良かったと思っています。ジャズの面白さがわかるようになるまで5年ほどかかりましたが、だからこそ、今もジャズを愛し、店を続けていられるのだと思います」(後藤さん)

ジャズ評論家として多くの著書をもつ後藤さんのジャズ人生が始まった。

ジャズを大音量で聴かせ、開店から夜6時までは会話禁止というと、ジャズの初心者には入りにくい店に思える。しかしひとたび足を踏み入れてジャズのリズムに身を任せると、決してこの店がマニア向けではないことに気づく。それは後藤さんの手による緻密な選曲によるのだ。

「2時間という枠の中で、飽きさせず、耳障りなく、流れを考えた曲順を組んでいます。前菜からメイン、デザートと供されるコース料理のように、往年の名演奏から新譜まで約1000通りの組み合わせから、その日の楽曲を選んでいます」と後藤さんは説明する。

2時間におさまるよう曲目が書かれた、選曲のためのリスト。店内でかかる曲は、有線放送の番組の一つとしても放送されている。

パソコンを開いて仕事をしながら店にいる客が、気に入った曲をメモする姿も多々見られる。ながら聴きでも、ジャズの奥行きを知り、面白さを発見できるのだ。

同店では月に一度程度「いーぐる連続講演」を行なっている。これは専門家を招き、後藤さんと音楽について自由に語り合う催しで、通算すると700回近くになる。様々な啓蒙活動を展開する後藤さんにレコードの良さを聞いた。

「今、音楽CDは簡単に自作できる時代です。しかしレコードは明確なコンセプトのもとでつくられる、完成度の高いものだと思います。ジャケットのデザインも含め、存在感が違います」

今日も魅力あるレコードがターンテーブルの上で回る。

プレーヤーはヤマハGT-2000。国産プレーヤーでは絶大な知名度と人気を誇る。音が太く艶があり、メリハリ感が際立つ音色だ。
ピアニスト、ホレス・パーランによる『speakin’my piece』。1960年録音のブルーノート3作目。泥臭くコクのある一枚という評。
後藤雅洋さん。慶應義塾大学在学中に店を開店。著書に『一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館)ほか多数。

ジャズ喫茶 いーぐる

東京都新宿区四谷1-8
電話:03・3357・9857
営業時間:11時30分〜23時20分(土曜は12時から)
定休日:日曜、祝日
交通:JR四ツ谷駅から徒歩約1分
45席

取材・文/関屋淳子 撮影/高橋昌嗣
※この記事は『サライ』2023年6月号より転載しました。

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