文/池上信次

本連載では「ジャズは人(個性)を聴く音楽」であるとたびたび紹介してきました。ですから、ミュージシャンの人となりがわかればもっとその音楽の理解も深まると思います(もちろん、それは知らなくても音楽は楽しめるものですし、そうでなくてはならないのですが、より楽しむためにということで)。その方法のひとつは「自伝」を読むこと。ジャズ・ミュージシャンの「評伝」の類はとてもたくさん出版されていますが、それは客観的な視点が前提です。いうまでもなく主観のほうがよりその「人」を知ることができるわけで、自伝にはそれがあります。今回は著名ジャズ・ミュージシャンの、「個性」満載の自伝を紹介します。
(ミュージシャン名-『日本語版タイトル(原題)』(原著刊行年)-著者/訳者/日本語版出版社〈一部絶版あり〉)

ハービー・ハンコック
『ハービー・ハンコック自伝-新しいジャズの可能性を追う旅(Possibilities)』(2015)
ハービー・ハンコック、リサ・ディッキー著/川島文丸訳/DU BOOKS

ゲイリー・バートン
『ゲイリー・バートン自伝(Learning to Listen: The Jazz Journey of Gary Burton–An Autobiography by Gary Burton)』(2013)
ゲイリー・バートン著/熊木信太郎訳/論創社

マイルス・デイヴィス
『マイルス・デイヴィス自伝(Miles: The Autobiography)』(1989)
マイルス・デイヴィス、クインシー・トゥループ著/中山康樹訳/シンコーミュージック・エンタテイメント

アート・ペッパー
『ストレート・ライフ-アート・ペッパー衝撃の告白自伝(Straight Life: The Story of Art Pepper)』(1979)
アート・ペッパー、ローリー・ペッパー著/村越薫訳/スイングジャーナル社

デューク・エリントン
『A列車で行こう-デューク・エリントン自伝(Music is My Mistress)』(1973)
デューク・エリントン著/中上哲夫訳/晶文社

チャールズ・ミンガス
『ミンガス-自伝・敗け犬の下で(Beneath the Underdog: His World as Composed by Mingus)』(1971)
チャールズ・ミンガス著、ネル・キング編/稲葉紀雄、黒田晶子訳/晶文社

ビリー・ホリデイ
『奇妙な果実-ビリー・ホリデイ自伝(Lady Sings the Blues)』(1956)
ウィリアム・ダフティ、 ビリー・ホリデイ著/油井正一、大橋巨泉訳/晶文社

ルイ・アームストロング
『サッチモ:ニュー・オルリーンズの青春(Satchmo: My Life in New Orleans)』(1952)
ルイ・アームストロング著/鈴木道子訳/音楽之友社

次の2冊は評伝ですが、本人が執筆に協力しているもので、実質自伝といえるものです。

ロン・カーター
『「最高の音」を探して-ロン・カーターのジャズと人生(Finding The Right Notes)』(2017)
ダン・ウーレット著/丸山京子訳/シンコーミュージック・エンタテイメント

ウェイン・ショーター
『フットプリンツ-評伝ウェイン・ショーター(footprints The Life and Work of Wayne Shorter)』(2006)
ミシェル・マーサー著/新井崇嗣訳/潮出版社
※前書きはハービー・ハンコック、序文はショーター本人によるもの。

以上は日本語版が出版されているものです。いずれも「自伝」ですが、多くは共著者がいます。ミュージシャンが素材を提供し、共著者がまとめるという役割分担となるのでしょう。この「共演者」によって表現は大きく変わってくるところですが、仮に事実と異なることがあったとしても、それもまた「ジャズ」と思って楽しむのがいいのではないでしょうか。

日本を代表するジャズマンふたりも自伝を書いています。

穐吉敏子(秋吉敏子)
『ジャズと生きる』(1996)穐吉敏子著/岩波新書
自伝と銘打っていませんが、自身が書き、長きにわたる活動を振り返った内容です。

渡辺貞夫
『僕自身のためのジャズ』(1665/80/85)渡辺貞夫著、岩浪洋三編/日本図書センター
初版は1969年、渡辺貞夫36歳の時なのでその後の人生のほうが長くなりました。80年と85年に増補版刊行。

これらのほか、日本語版が出版されていないものでは下記のものがあります。
(ミュージシャン-タイトル/初版刊行年)

パット・マルティーノ
『Here and Now!: The Autobiography of Pat Martino』(2011)

ホレス・シルヴァー
『Let’s Get to the Nitty Gritty: The Autobiography of Horace Silver』(2006)

オスカー・ピーターソン
『A Jazz Odyssey: The Life of Oscar Peterson』(2002)

ペギー・リー
『Miss Peggy Lee: An Autobiography』(1990/増補版2022)

ライオネル・ハンプトン
『Hamp: An Autobiography』(1989)

カウント・ベイシー
『Good Morning Blues: The Autobiography of Count Basie as Told to Albert Murray』(1985)

アニタ・オデイ
『High Times, Hard Times』(1981)

ディジー・ガレスピー
『To Be or Not to Bop: Memoirs the Autobiography of Dizzy Gillespie』(1979)

ハンプトン・ホーズ
『Raise Up Off Me: A Portrait of Hampton Hawes』(1974)

自伝は「歴史の証言」といえるものです。大著となるものが多く、日本語版ではロン・カーターは580ページ、マイルス、ペッパーは500ページ、バートン、エリントンは450ページ、ハンコック、ショーター、ミンガスは400ページを超えるといったぐあい。なぜならジャズマンの人生は必ず波乱万丈になるから、というのはジョークですが、自伝を出すほどのミュージシャンとなれば活動期間も長く、多くの功績を残しているからですが、それだけの情報量ですから音楽への理解が深まらないはずはないですよね。また、同じ事象でも当事者の視点は異なるものもあり、たくさん読んでいけばジャズの歴史観も変わってくるかもしれません。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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