小牧・長久手の戦いにて、秀吉を激怒させる

天正12年(1584)、康政の武名を高めることになる「小牧・長久手の戦い」が勃発。この戦いは、織田信長の次男・織田信雄(のぶかつ)と、豊臣秀吉の関係悪化によるもので、信雄側についた家康とともに、康政は秀吉と一戦を交えることになります。

小牧・長久手の戦いでの榊原康政
小牧・長久手の戦いでの榊原康政(榊神社所蔵品)

その際、康政は秀吉に対し、「秀吉は織田家を乗っ取ろうとしている」といった内容の檄文を送り付けました。この出来事は、江戸時代に入ってから編纂された徳川家の史書・『武野燭談(ぶやしょくだん)』にも記載されています。

これに激怒した秀吉が、「康政の首を討ち取った者には、望みのままに褒賞を与える」という旨を家臣らに伝え、康政を本気で殺そうとしたという逸話が残っています。

戦いが終わり、関白となった秀吉が家康と和睦した際、康政は突然秀吉に呼び出されることに。康政は死を覚悟したそうですが、秀吉は何と康政を赦免し、「式部大輔(しきぶのたゆう)」という官位まで授けたのです。秀吉は、自らの命も顧みない康政の勇敢かつ大胆な行動に感心したのかもしれません。

関ヶ原の戦いに大遅刻

文禄元年(1592)から、家康の三男で、のちに江戸幕府第2代将軍となる徳川秀忠(ひでただ)の補佐役として仕えるようになった康政。慶長5年(1600)の「関ヶ原の戦い」の際にも、秀忠と行動をともにしますが、ここで大事件が起こってしまいます。

関ヶ原合戦図屏風
『関ヶ原合戦図屏風』(関ヶ原町歴史民俗資料館所蔵品)

東山道軍に属し、家康とは別のルートで進軍した康政と秀忠。途中で信州(現在の長野県)の真田昌幸(まさゆき)・幸村(ゆきむら)親子と戦うことになったり、大雨による被害に巻き込まれたりと、なかなか目的地にたどり着くことが出来ず、「関ヶ原の戦い」に大遅刻してしまうのです。

天下分け目の大事な戦いに遅刻した息子・秀忠に激怒した家康は、秀忠との面会を拒否。見かねた康政が全ての責任をとり、家康に陳謝するとともに、「深く反省している息子の弁明を聞かないのは間違っている」と家康を諭して、秀忠との和解に持ち込んだという逸話が残されています。

老中となった康政の最期

天正18年(1590)、家康の関東移封の際に、現在の群馬県にあたる上野国(こうずけのくに)の館林(たてばやし)で10万石の領土を与えられ、館林城の城主になります。「関ヶ原の戦い」の後、江戸幕府を開いた家康によって、康政は老中(幕府の最高職)に抜擢されることに。

しかし、康政は館林にて隠居同然の生活を送るようになり、公の場に姿を現さなかったそうです。これに関しては、「老いた者が自分の権利を争うのは、国を衰退させることにつながる」という考えがあり、政治に口出ししようとしなかったという逸話が残されています。

その後、病に伏せるようになった康政に対し、「関ヶ原の戦い」での恩を返すべく、家康の息子・秀忠は康政のもとに医者を手配し、薬やお見舞いの品などを送ったとされます。しかし、その甲斐なく慶長11年(1606)、康政は59年の生涯に静かに幕を閉じたのです。

館林城の本丸跡
館林城の本丸跡(群馬県館林市)

まとめ

松平家の陪臣の家系出身であり、次男であったにも関わらず、家康の家臣として数々の戦で功績を残し、「徳川四天王」に数えられるほどの出世を果たした榊原康政。

同じく若くして家康の家臣となった「徳川四天王」の一人で、13歳年下の井伊直政を最初は毛嫌いするも、その才覚に気づくと直政を認めて深く信頼し合う仲になったという逸話が残されるなど、非常に人情味あふれる魅力的な人物であったと言えるでしょう。

榊原康政もまた、幾度となく危機を迎えた家康を支え続け、幕府開設に貢献した忠臣の一人であったと考えられます。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/とよだまほ(京都メディアライン)
アニメーション/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『日本人名大辞典』(講談社)
『朝日日本歴史人物事典』(朝日新聞出版)

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