■撮影データ
カメラ:Canon EOS R3
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/4.0
シャッター速度:1/250秒
ISO感度:160

スズメと並んで身近な野鳥の一つにサギがいる。大きな川に限らず、住宅地の小さな水路や公園の池、田んぼなど、ちょっと注意して探せば、その白い、あるいはグレーの体と長い首がトレードマークのサギの仲間を見つけることができる。

白いサギは体の大きさの順にダイサギ、チュウサギ、コサギなど、おもに3種類がいる。そのほか、やや体が大きく、グレーと紺色が目印のアオサギがいる。

目に障がいを持つガジュマルさんにとって、身近なサギはスズメとともに観察や撮影の格好のターゲットだが、ガジュマルさんは厳しい自然の中で懸命に生きる彼らの姿を時に自身に重ね合わせたり、その野生の生態から生きる術を感じ取ったりしている。それはサギ特有の存在感がそうさせているのだという。

僕がサギの堂々とした姿から学ぶこと

ガジュマルさんが野鳥を観察している近所の公園に大きな池がある。その中央には大きな柳の木。ここは池に集まるサギにとって大切な場所になっている。止まり木を争うコサギや、柳の垂れた枝葉のそばに佇むアオサギはガジュマルさんにとって大事な被写体だ。特に繁殖期のサギは、飾り羽と呼ばれるこの時期特有の美しい羽を纏った姿が見るものの目を引きつける。

シャッターチャンスはサギの活動が活発になる朝と夕方。斜光線を浴びたダイサギやコサギ、アオサギの姿を求めて、ガジュマルさんは池の柳にレンズを向ける。

ここで撮影を始めた頃、サギの飾り羽と柳の葉の美しさに魅せられて色々調べていたガジュマルさんは「柳鷺」(りゅうろ)という言葉を見つけた。

柳とサギを画題に選ぶことは伝統的に繰り返されてきたことのようだった。

身近なサギを見つめるガジュマルさんの思いとは。

柳鷺(ダイサギ)

私はサギが大好きだ!

伝統的画題の「柳鷺」という言葉を知るや「柳鷺の写心家になりたい!」

と、思った。

サギは柳にその身をおくと高貴な魅力を放つ鳥。

観察していると、ときどきおもしろい表情も見せるのだが、そのサギですら柳にかかれば高貴に見えるから不思議だ。

「サギはどこにでもいる」

たとえ人から興味を持たれなかろうが私はその魅力を知っている!

珍しい鳥や派手な鳥はすんなり人の興味を引き、地味で個体数の多い鳥は、その良さが見えなくなりがちになる。

ヒトも同じか?

自分の良さが引き出される環境を知らず、自分の魅力を気づいてもらえないまま自分を切り捨ててはいないだろうか。

そうだ、鳥がヒトと違うのは、その堂々たる姿。素直な姿。

「私はサギの魅力を直感した」

それが撮る理由だ。

■撮影データ
カメラ:Canon EOS R5
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/8.0
シャッター速度:1/180秒
ISO感度:3200
※三脚、テレコンバーター使用

ガジュマルさんのインスタグラムに登場する野鳥の写真には、仕草の愛らしさ、色彩の美しさが際立つ場面はもちろん、時には野生の「強さ」を見つめた写心と言葉が綴られている。難病を患い、思うようにいかない日々を過ごす自身の境遇を被写体に重ねた写心とその言葉からは、もがくように今を生きるガジュマルさんの心情や被写体への尊敬の念が感じられる。

探検(ホシゴイ)

座間市のとある池の真ん中には木が生い茂る小島があり、8羽のゴイサギが生息している。ゴイサギは警戒心が強く、いつも木枝の蔭に身を潜めて暮らしている。僕も彼らと同じ気持ちで遠くから、そぉーっとのぞかせてもらっているんだ。この日も、40mほど離れたところから小島のホシゴイ(ゴイサギの幼鳥)の様子を双眼鏡でのぞいていた。

するとホシゴイは、急に高い木から舞い降りて根元から池に倒れこんだ一本の竹に止まると、小島を離れてじりじり竹の橋を歩き出した。

「これは予想外の動きだ!」

地元の方も、友人も、みんなびっくり。まわりのカモ達もびっくり。僕はいつもの「え? なに? どこどこ?」状態。

周りの人に状況を教えてもらい、そしてカメラを向けてもらい、出遅れながらようやく追いつく。ホシゴイはひとり池をじっと、のぞいていたが、

「あれ?」

ホシゴイはもぞもぞ、後ずさり。ホシゴイの冒険は、ほんの30秒かそこらで終わり木枝の中に帰っていった。その30秒で、僕もホシゴイをカメラに収めることはできた。

でも30秒じゃ、勇気を出したばかりの子どもに餌は獲れないだろう。かわいそうに……。そうだよね。きみは、カモや周りがびっくりしたことにびっくりしたんだね。怖かったね……。

なんだか自分に重なってしまった。

視覚障がい者の行動って、周りから見るとびっくりしちゃうんだって。なんでそこに立ち止まっているの? 次はどう動こうとしているの? って、予想がつかなくてびっくりするんだって。

だけど、僕も周りの反応にびっくりして逃げてしまいたくなることがたくさんある。実はこの日は、初めて息子と二人だけで電車に乗って撮影にむかった日だった。

過去に何度も電車で転倒したことがあって怖かったけど、勇気を出して遠征した。

電車に乗る時間が短くても遠征だ。ハラハラして、怖くて、時間がたつのが遅いんだ。早く着いて! って祈り続ける。

混雑した電車はものすごく怖い。

車内ではなるべく隅っこにいられるのが安心する。この時は手すり棒にしがみついたが、それだけでは安心できない。次の危険は、駅に着くたび訪れる。

ドアが開くたび、人の乗り降りがあるたびに、危険が襲う。手汗をかくほど、手すりを握って、自分を小さく、小さくする。

町田駅に着き、僕も乗り換える。慎重に歩き出した、はずだった。気づいたときには降車客の波に巻き込まれ、車内で転倒。左肘と背骨を強打した。仰向けに倒れて呆然としている僕と、僕をかばう息子を見て、車内が混乱している。

小学一年生の息子が、大きな体の父をかばっている。

それでも差しのべられる手もなく、関わらないようにしようとする人の気持ちがみて取れる。カメラバッグや僕のうでを踏みつけながら、人々は逃げるように電車から降りていった。

急いでいるのはとてもよくわかるが、信じられないほどのごみ扱い。

終いには「立ち上がらないと電車が遅れるからホームに降りたら?」と促され立ち上がったが、悔しくて涙も出ない。あー、間違えた。ここに来なければよかった。最悪だ。逃げ出したいのはこっちのほうだ。混乱したのは僕も息子も同じだよ。逃げ出したくても危なくて、勇気も出ない。

ただただ引き返したい……!

そんな朝だった。

だから、この若いホシゴイの勇気ある一飛は、心に響いた。僕が頑張って電車に乗ってみたのと同じことだから。

いつものように無言で体で押し合いながら電車を降りて、いつもならなんともなかった降車客たちは、今日はびっくりしちゃったんだな。僕があまりに急に倒れてきたから。周りの人がびっくりしたのを見て僕も怖かったな。

視覚障がい者になって一番怖いことが、電車とバス。

安心して乗れるように、どうしたらいいだろうか。安心して一緒に乗ってもらえるように、どうしたらいいだろうか。勇気ある一歩も大事だけど、もう少し周りのこと、考えないとな。

勇気ある一歩の出し方を、考えさせられた。

■撮影データ
カメラ:Canon EOS R5
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/8.0
ISO感度:1600
※三脚、テレコンバーター使用

雪鷺(コサギ)

1月の雪の日。待ちに待った雪が降る中、息子と自宅周辺の野鳥スポットを回る。いつもの身近な野鳥の姿が、雪化粧でさらに美しく見える。

寒い雪の中でも、彼らにとってはただの日常の光景に違いない。

寒さを耐え忍び、いつもと同じ一日を過ごしているように見えた。

この日はいつもより見通しも悪く、足元も雪で滑る中、双眼鏡を家に忘れてしまっていた。

それでも慌てることがなかったのは、息子がいつもどおり僕に鳥の方向を伝えてくれ、僕はいつものように教えてくれた方向にカメラを向ければ野鳥の観察・撮影ができると分かっていたからだ。

普段の練習が、また役に立った。

いつもと何かが違う「その時」に大切なのは、平時の行動だと実感した。

毎日、たんたんと、やるべきことをやる生き方。

それが、美しい。それが、目標。

■撮影データ
カメラ:Canon EOS R5
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/4.0
シャッター速度:1/800秒
ISO感度:2500
※三脚、テレコンバーター使用

写真と写心の言葉/磯部陽樹
1983年(昭和58)、沖縄県生まれ。中学校時代、自分の生きる環境に疑問を感じ、単身渡米。米国でシステムエンジニアとして働きながら、「千年先に心を遺したい」と、独学で写真撮影を始める。2018年、国の指定難病であるレーベル遺伝性視神経症を発症。中心部視野60%を喪失、色盲症状のほか、全身的な神経症状によりカメラを持てない時期を経る。改善の見込みなく身体障害者1級認定。退職を余儀なくされるが、システムエンジニアとして復職を果たし、2021年に写真撮影を再開。インスタグラムで作品を発表するようになる。視覚障がいを想像させない写真のクオリティと撮影エピソードに込められた思いが静かな共感を呼んでいる。ガジュマルさんは写真のことを「写心」と呼ぶ。

構成/中村雅和

 

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