ミズノが現地の小学校JUNKO Schoolにサッカーボールを寄贈。左端が著者・梅田邦夫氏

キーワードは「対中警戒感」。中国が専制国家の色彩を強める中、日本にとって重要な国となっているのがベトナムだ。なぜベトナムが重要なのか? 昨年3月まで駐ベトナム大使を務めていた梅田邦夫氏の著書が、関係者の間で話題を集めている。元通産官僚で評論家の八幡和郎氏が解説する。

* * *

『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機~「対中警戒感」を共有する新・同盟国』という梅田邦夫前註ベトナム大使の新刊は、海外事情紹介本として新しい可能性をひらくものであり、派手ではないが画期的な出版だと思う。

ベトナムは、日本にとってベストテンに入るくらい大事な国になってきたが、意外に知られていないし紹介本も少ない。また、外交官、とくに大使が書いた赴任国についての著作で一般向けの本として成功したものもありそうで誠に少ない。そのふたつの意味で称賛に値し、お薦めできる第一級の好著である。

私自身も中国・韓国・日本の歴史的な関係を解き明かすために様々な本を書いてきた(近著は『日本人のための日中韓興亡史』さくら舎)。そうしたとき、重要な隣国であるベトナムについても書かねばならないことがあって、この国のことを知りたいと思って本を集めていろいろ読んだことがある。

しかし、本当にいい本がないのである。世界各国の歴史シリーズの1冊といったものを除くとほとんど見当たらない。当然、最近のことは余り書いてない。一般書を探してもせいぜい、産経新聞の特派員だった近藤紘一氏の『サイゴンのいちばん長い日』とか『サイゴンから来た妻と娘』くらいでなかったか。あとは、観光案内くらいだ。

日本人のベトナムへの関心は、いまだ、ベトナム戦争で止まっているのである。しかし、今日の日本では41万人ものベトナム人の労働者や留学生が滞在しており、さらに急増している。

いまや日本の製造業も都市を支えるインフラも、ベトナム人なくしては成り立たない。また、日本の製造業にとっても、米中経済戦争で中国への投資割合を減らしたい企業にとって最重要の投資先になっている。

また、日本との関係を横においても、私が試算した平成年間全体での経済成長率は、中国が3位であるのに対してベトナムは2位である。1位は赤道ギニアという人口67万人の産油国だから、それなりの国のなかではベトナムが1位ということになる。

そのベトナムについて、歴史、経済の現況、日本との関係、中国との比較と相互関係、日本企業と日本人の現地での活動、日本におけるベトナム人の増加とそれに伴って生じている諸問題などについて、一通りの知識と最新の状況において考えたい問題を網羅的に紹介した本書の出現は、地球儀の盲点だった部分を埋めてくれるものである。

扱っている分野の選定も、光と影の部分を両方とも抑えているという意味でもバランス感覚がなかなか良いが、そういう本は珍しい。

俳優杉良太郎さんなど友好に尽くす人々

元大使の本というと、武藤正敏元駐韓大使による『韓国人に生まれなくて良かった』など一連の著作があるが、これは、韓国の極端な反日外交がゆえに、政府全体の姿勢として韓国には反省を求めている文脈のなかで許されているという特殊な事情ある。

そういう例外を除くと、一般的に、大使の本はお世話になった赴任国への感謝や称賛が並べられ、また、日本の文化経済協力や自分の業績についての自慢話で終わりがちである。そんなものは面白くもないし、前向きな意味もあまりない。

しかし、本書では、たとえば、技能実習生の派遣で、悪徳業者が暗躍し日本にせっかく来るベトナム人が、大きな負債を背負ったりしているケースなどの実情も描かれ、問題を解決するための課題も具体的に提案されている。

また、30年間にわたり孤児たちの援護を続けている俳優の杉良太郎さんなど、ベトナムでの慈善事業やビジネスで活躍している人々も過不足なく紹介されていて、国際親善の縁の下の力持ちともういうべき人たちに光を当てているのも嬉しいことだ。

2国間の友好というのは、本書でも2017年に両陛下(当時)がご在位中における最後の外国訪問でベトナムを訪れられたことの意義が詳しく書かれているが、それも含めて、官民で指導的立場にある人による貢献とともに、私たち日本人にとっては名も知らぬが、現地では偉人として崇敬を集めている草の根の人々の働きによって支えられていることが説明されている。

そして、ベトナムがいかに親日国であるかが紹介されているが、その背景として、両国民の共通の文化的素地として、仏教国であること、なかんずく、大乗仏教が盛んであることが強調されている。云われてみれば、中国も韓国も仏教国とは言い切れないものがあり、それは重要な視点だと思う。

さらに、この本の刊行のタイミングが非常にいい。留学や在勤をテーマにした本を書きたいという人は多いのだが、あまりいいものは少ない。そこで私はその原因について考えたことがある。

そして、気がついたことは、本を書きたいと思うのが帰国後であることが多いのであるが、そうすると、材料が古くなったり、現地から離れているので、裏が取りにくくなっていたりして、質が高く新鮮なものが書けないのだ。

そこで、私は若い頃にフランスに留学することになったときに、事前に出版社から刊行の約束をいただいて、現地でほとんど書き上げた。そのお陰で、『フランス式エリート育成法』(中公新書)を出したときに好評をいただいた。

それと同じ意味で、昨年の4月に離任された著者が、それから、ほぼ1年で刊行にこぎ着けられたこともこの本の成功の一因であろうかと思う。

さらに興味深いのが、中国との関係や比較であり、それは、著者が中国での駐在経験があることでより深い分析となっているのであるが、それについては、後編に詳しく紹介したいと思う。

後編はこちら


文・八幡和郎(やわた・かずお)
元通産官僚で評論家、歴史作家。徳島文理大学教授も務める。著書多数。近著に『日本人のための日中韓興亡史』(さくら舎)がある。




梅田邦夫(うめだ・くにお/前・駐ベトナム全権大使)
1954年3月、広島県生まれ。1978年、外務省入省後、ペルー、アメリカ、国際連合、中国などの海外勤務や本省勤務を経て、2014年、駐ブラジル特命全権大使、2016年、駐ベトナム特命全権大使を歴任。2020年4月の退職後は、日本経済研究所上席研究主幹。外国人材支援全国協会(NAGOMI)副会長も務める。

『ベトナムを知れば見えてくる日本の危機 「対中警戒感」を共有する新・同盟国』

Amazonで商品詳細を見る

楽天市場で商品詳細を見る

関連記事

ランキング

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

サライ最新号
2021年
8月号

サライ最新号

大人の逸品Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

おすすめのサイト
dime
be-pal
スーツウーマン
mensbeauty
petomorrow
リアルキッチン&インテリア
大人の逸品
おすすめのサイト
dime
be-pal
スーツウーマン
mensbeauty
petomorrow
リアルキッチン&インテリア
大人の逸品