撮影情報
カメラ:Canon EOS R3
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/4.0
シャッター速度:1/4000秒
ISO感度:4000

野鳥たちの一瞬の命の輝きを捉えた写真。撮影したのはガジュマル(磯部陽樹)さん(39歳)。ガジュマルさんは視覚に障がいを持っている。小さく、俊敏に動き回る野鳥を撮影するのはプロでも難しい。それを、ガジュマルさんはどうやってカメラで捉えているのか。

写真のことを「写心」と呼ぶガジュマルさん。彼のインスタグラムの投稿には、毎回印象的な言葉が添えられている。自分自身を鼓舞する言葉、観る者の心に問いかける言葉……。

「やり方は分からなくても、やれるようになるまでやるだけ」

ガジュマルさんが撮影した無二の「写心」と、魂の「言葉」を紹介していきたい。

着物美人(カワセミ)

撮影情報
カメラ:Canon EOS R5
レンズ:RF600mm F4 L IS USM
絞り:f/14
シャッター速度:1/200秒
ISO感度:1600
※テレコンバーター、三脚使用

「これ実は、振袖なのよ?」

片腕のばし、美しい着物姿を背中で見せた。

今日はどんな表情をとらえられるのかと、

おなじカワセミ、おなじ止まり木でも、

私は飽きることなくカメラを向ける。

いきものでは尚のこと、撮ろうと思って撮る写真には限界があり、

空の演出と、いきものからのサプライズプレゼントを、

一瞬一瞬、全力で受け取る準備を私がするだけなのだ。

カワセミを撮っていたはずが、着物美人が写っていた。

大自然の心に、私の心が応えられたとき、写心になる。

ガジュマルさんを紹介します

「ガジュマル」とは日本では主に沖縄で自生する熱帯植物のこと。岩礁という特殊な土壌環境でも根を張り大きく育つ生命力にあふれた存在だ。人々はその木蔭で暑さをしのぎ、憩う。私たちに癒しをもたらしてくれることからガジュマルは「幸せを呼ぶ樹」とも呼ばれる。そんなガジュマルの樹のような大きな優しさや強さを持つ人間になることを願い、出生時、沖縄に住んでいた両親が彼に与えた名前だ。

今、ガジュマルさんは視力と色覚がほとんどない。正確には3年前に突然それを失ったのだ。それにもかかわらず、自宅近くの公園や里山の川などで、野鳥の撮影を楽しみ、インスタグラムを通じてその作品と、その一枚一枚にまつわる思いを発信している。野鳥が垣間見せる命の輝きやその姿に惹かれるまま、障がいと付き合いつつ自分なりの方法を編み出して撮影を続けて一年あまりが経った。

目がほとんど見えないにもかかわらず、なぜ今ガジュマルさんはカメラを手にしているのか、病気を発症して以降、どういう思いで撮影を続けてこれたのか、彼はなぜ写真ではなく「写心」と呼ぶのか。次回も、そんなガジュマルさんの「写心」と言葉を紹介していきたい。

写真と写心の言葉/磯部陽樹
1983年(昭和58)、沖縄県生まれ。中学校時代、自分の生きる環境に疑問を感じ、単身渡米。米国でシステムエンジニアとして働きながら、「千年先に心を遺したい」と、独学で写真撮影を始める。2018年、国の指定難病であるレーベル遺伝性視神経症を発症。中心部視野60%を喪失、色盲症状のほか、全身的な神経症状によりカメラを持てない時期を経る。改善の見込みなく身体障害者1級認定。退職を余儀なくされるが、システムエンジニアとして復職を果たし、2021年に写真撮影を再開。インスタグラムで作品を発表するようになる。視覚障がいを想像させない写真のクオリティと撮影エピソードに込められた思いが静かな共感を呼んでいる。

構成/中村雅和

 

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