上総広常の凄絶死から粛清劇が始まった!
I:第15回で上総広常(演・佐藤浩市)が粛清された回もひときわ印象深い回になりました。
「佐藤浩市・上総広常が粛清死!緻密に配された「H難度」脚本の着地がピタッと決まった理由」(https://serai.jp/hobby/1069749)。脚本の難度が高いと絶賛していますね。
編集者A(以下A):まさに手に汗握る展開で、戦慄が走りましたね。みなさんそれぞれ意見があろうかと思いますが、体操に例えると「H難度」の難しい技を繰り出した脚本だったという印象です。
I:体操? H難度? 鉄棒でいうと、カッシーナがG難度。ブレッドシュナイダーがH難度です。現在男子の最高難度がI難度といいますから、かなり高難度な技を駆使した脚本だという評価ですね。鹿狩りの〈鹿〉は誰のことなのか、誰がどちらの内通者なのか、ドキドキして見ていました。解説してください。
I:いろいろな意味で衝撃的だったのは、21話でしょうね。北条氏の面々が一堂に会した回です。「まさか、そうなのか、そう来たか、そして絶叫!〈新垣結衣=八重水難〉脚本に、これだけは言いたい!」(https://serai.jp/hobby/1075619)。北条義時(演・小栗旬)の妻・八重(演・新垣結衣)が水難で亡くなった衝撃の回のラストで〈オンタラクーソワカ―〉が初めて登場する回になりました。
A:私がすごい脚本だと思ったのは、八重さんが水難に見舞われたことです。
I:あ! 韮山の「八重姫伝承」につながるんですね!
A:そうです。韮山(伊豆の国市)の真珠院には八重姫にまつわる伝承が残されています。〈源頼朝との契りの一子「千鶴丸」を源平相剋のいけにえにされた伊藤祐親の四女「八重姫」は〉で始まる案内文には、劇中の描写とは異なるとはいえ、八重姫が入水した経緯を記しています。
I:思いっきり大胆な仮説をもとにしていますから、そもそも八重さんの最期の描写は自由。それを敢えて、地元の伝承に近い水難で着地させる。ゆかりの地に伝わるエピソードに最大限配慮した「大河愛あふれる」脚本になったということですね。
(中略)
A:さらに今週は、りく(演・宮沢りえ)に男子が誕生した様子が描かれ、その流れで時政の娘で畠山重忠(演・中川大志)に嫁いだちえ(演・福田愛依)が身ごもったという報告があった場面が特別印象に残りました。
I:喜びの中に、「やがて来る悲しみの種がまかれる」という胸に迫りくるシーンでしたよね。この後の歴史を知っている人にも、あまり詳しくない人にも、今後見続けることで印象に残るシーンとして設定された感があります。
A:時政、りく、全成、大姫、畠山重忠、そして稲毛重成(演・村上誠基)、さらには、生まれたばかりの時政の息子に畠山重忠の身ごもったばかりの子供……。 満面の笑みの中にいる彼らの今後の運命を思うと、あまりに切ない……。
I:1年間見終わって、このシーンを見直したら号泣してしまうかもしれませんね。
I:自分で言っておいてあれですが、後半はいつも涙を流す回が続きました。第21回の北条家のシーンはほんとうに象徴的な回になっていたんですね。
A:はい。この続きは後半に語り合いましょう。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり