ライターI(以下I): 四代約百年にわたり栄華を誇った奥州藤原氏が滅亡しました。
編集者A(以下A):奥州側の視点に立てば、劇中から約130年前の前九年の役同様に、奥州が源氏によって蹂躙されたということです。かつては学界でも『吾妻鏡』にも記された「奥州征伐」と呼んでいましたが、最近では「奥州合戦」の呼称が主流のようです。
I:泰衡(演・山本浩司)の首を持参した泰衡郎党の河田次郎(演・小林博)のエピソードが登場しました。
A:頼朝(演・大泉洋)の父義朝は、平治の乱で敗れた際に立ち寄った長田忠致(おさだただむね)に裏切られて湯殿で斬られました。後に頼朝は長田父子を打ち首にします。劇中で頼朝は〈恩を忘れ欲得で主人を殺すとは何事か〉と語っていましたが、父のこともあり、そうした行為が許せなかったというのは理解できます。
I:武田家滅亡の際にも「武田勝頼を裏切った」小山田信茂が非業の最期を遂げますが、裏切り者の末路は凄惨です。
A:昭和、平成の任侠系映画でも裏切り者は同様の末路をたどることが多いですね。後に、忠義を重んじるようになる日本人にとって裏切り者は許せぬ存在なのでしょう。
若き運慶と北条時政のやり取りは「神シーン」
I:今週は特筆すべき場面がありました。願成就院の場面で時政(演・坂東彌十郎)、義時(演・小栗旬)に加えて仏師運慶(演・相島一之)が登場しました。
A:願成就院は奥州攻めの勝利を祈願して北条時政が建立した寺院で、時政の実力者ぶりを今に伝えてくれます。しかも後に人気仏師として引く手あまたの存在になる若き運慶に造仏を依頼できた時政の人的ネットワークにも注目です。
I:単純に「時政すごい!」 ってシーンでしたね。
A:願成就院の運慶作仏像が、国宝に指定されたのは平成25年。つい最近のことです。北条時政と実際に相対した阿弥陀如来をはじめとする5躯の運慶作の仏像は美術史上でも注目されていますが、実際にお参りすることができます。心してお参りすれば、時空を越えて時政や義時と空間を共有したような心地がしますから不思議なものです。
I:以前、「当欄13」で、「願成就院をぜひお参りしていただきたいです」と記しましたが、まさか劇中で登場するとは思いませんでした。
A:時政、義時、運慶のやり取りは、いろいろな意味で「大河ドラマ史上屈指の名場面」になったような気がします。造立時の金色に輝く漆箔のお姿を忠実に再現した美術さんの仕事も相変わらずすごい!
【八重さん水難のシーン、ここがすごい! 次ページに続きます】