文・絵/牧野良幸

ドリフターズの仲本工事さんが交通事故にあい、残念なことにその後亡くなられた。ドリフターズを小学生の時から見てきた僕としては言葉もない。そこで今回はドリフターズの映画を取り上げて仲本工事さんの追悼としたい。

ドリフターズと言えばテレビの『8時だョ!全員集合』を誰もが思い浮かべるわけだが、映画もたくさん制作された。今回取り上げるのはドリフターズの記念すべき主演第1作『なにはなくとも全員集合!!』である。テレビで『8時だョ!全員集合』が始まる2年前、1967年(昭和42年)の映画だ。

映画の舞台は草津温泉、そこに乗り入れるローカル鉄道と新興バス会社の諍いを描いたコメディだ。ドリフの役は、鉄道会社側に仲本工事と加藤茶、バス会社側にいかりや長介と荒井注を配している。高木ブーはホテルの番頭役だ。

志村けんがいない、という疑問はサライ読者なら持たないと思うが、一応若い方のために書いておくと、志村けんがメンバーに正式加入するのは1974年(昭和49年)のこと。荒井注がドリフを抜けることになり、代わりに付き人だった志村けんが加入した。若い人には志村けんのいたドリフが鮮烈だろうけど、僕の世代なら荒井注がいた時のドリフターズの印象が強いのではないか。

映画に話を戻そう。

ドリフの面々、初主演映画にもかかわらず演技もコントも手慣れた感じがある。ギャグは今の感覚ではベタなものばかりなのだが、ついくすっと笑ってしまう。これしきのギャグで笑うなんていけねえ、と思いつつ、体が反応するのだから仕方がない。年齢は重ねてもドリフで育った人間の宿命だ。

駅員の仲本工事と加藤茶が、新しく赴任してきた駅長(三木のり平)の娘悦子(中尾ミエ)を好きになる。二人が引っ越しの手伝いで悦子にいいところを見せようとするところなど、『8時だョ!全員集合』のコントのノリそのものである。

悦子の荷物を運ぶ仲本工事に、加藤茶が横槍を出す。

「僕が持ちましょ」

「これは俺が持つの!」と仲本工事。

「俺に任せておけばいいの!」

二人の小競り合いは続き、最後は加藤茶が仲本工事の頭を叩く。仲本工事のメガネが飛ぶ。

「メガネが取れたら見えないだろ」

これも子どもの頃よく見たコントだったと懐かしくなる。仲本工事はランニング姿で、『8時だョ!全員集合』での体操のコントも思い出させる。

他にもドリフターズらしいコントがある。夜の温泉街でのドリフ総出演でのドタバタ対決シーン。その後警察に捕まり、留置場でのいかりや長介と加藤茶が互いのタバコとマッチを取り合うコントもそうだ。二人の間合いも『8時だョ!全員集合』の既視感がある。ジリジリとおかしさを重ねていき、飽和したところでドカン。これが公開録画ならちびっ子たちの笑い声が沸き起こっているだろう。

ただドリフターズの主演映画と言っても、実質的な主役は駅長役の三木のり平である。オープニングも三木のり平と中尾ミエの名前が最初に出る。それまでもテレビで活動していたドリフターズだが(1966年にはビートルズ来日公演の前座もした!)、制作側はまだ彼らに全面的に任せられなかったのかもしれない。

このエッセイを書く前に、たまたま同じ1967年公開のクレージーキャッツの『クレージー黄金作戦』を見た。それにドリフターズもワンシーンで出ていて、憧れの先輩クレージーキャッツの映画に出ている興奮やら、自分たちもはやく主演映画を持ちたいという意気込みがみなぎっていた(ように感じた)。

それが逆に百戦錬磨の植木等や谷啓に比べると、ドリフの硬さに感じられ、これがベテランと若手の違いかなあと思ったものだが、いやいや、同じ年に制作された初主演作を見ると力も抜け、彼らの面白みが存分に出ている。心配は杞憂だったのだ。

制作側も手ごたえを感じたのか、この第1作を皮切りにドリフ主演の映画が次々と作られていく。ドリフターズがクレージーキャッツよりもお茶の間の人気者となるのはこのあたりからだ。そして日本中に大旋風を巻き起こしたコント55号にもかわって、ドリフターズは国民的な人気を得る。これが小学生から中学生にかけてテレビっ子だった僕の記憶である(誰もが知っていることであるが)。

映画のエンディングはヤクザに悦子が捉えられたところから始まる。いかりや長介の

「全員集合!」

この掛け声とともに、ドリフの面々による悦子の救出作戦が始まるのだ。この「全員集合!」のフレーズがなんとも初々しい。そして感慨深い。

映画を見てあらためてドリフターズはバランスの良い5人だったとわかる。ドリフターズはおそらく誰が抜けても存続が難しかったのではないか。荒井注が抜けると聞いた時は、子ども心でもドリフは大丈夫かと心配したものだが、志村けんという稀有なコメディアンがいたので支障なく継続できたのだと思う。

その志村けんも2020年に亡くなっている。最初は荒井注だった。その後にいかりや長介。テレビを通じて焼きついていたドリフターズから、歯が抜けるようにメンバーがいなくなるのは実感に乏しく、なかなか受け入れられない。そして今回の仲本工事さんである。あらためて仲本工事さんのご冥福をお祈りします。

【今日の面白すぎる日本映画】
『なにはなくとも全員集合!!』
1967年
上映時間:83分
監督:渡邉祐介
原作:田波靖男
脚本:石松愛弘、渡邉祐介
出演:ザ・ドリフターズ(いかりや長介、高木ブー、荒井注、仲本工事、加藤茶)、三木のり平、中尾ミエ、水谷良重、中村晃子、若水ヤエ子、丹阿弥谷津子、古今亭志ん朝、ほか
音楽:萩原哲晶

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

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