はじめに-北条政子の演説とはどんなものだったのか

「北条政子の演説」は、後鳥羽上皇が倒幕のために起こした内乱である「承久の乱」に際して行われました。源頼朝の死後に繰り広げられた鎌倉幕府内の政争に乗じ、後鳥羽上皇は討幕のため挙兵を決意。それを知った幕府の御家人らに団結を促したのが、“尼将軍”である北条政子でした。鎌倉幕府初代将軍・頼朝の正妻である彼女の演説とは、どのようなものだったのでしょうか。

目次
はじめに-北条政子の演説とはどんなものだったのか
北条政子はなぜ演説を行ったのか?
この出来事の内容と結果
北条政子の演説、その後
まとめ

北条政子はなぜ演説を行ったのか?

源頼朝の没後、子・頼家が将軍となっていましたが、建仁3年(1203)、北条時政(ときまさ)らが頼家を退けると、その後、弟・実朝(さねとも)が将軍となりました。その頃、朝廷で実権を握っていたのが、後鳥羽上皇です。上皇は、自身の近臣の娘を実朝の妻にするなど、公武関係の緊密化を進めます。

しかし、上皇が実朝を通じて幕府に、地頭の個別的停止などを求めたのに対し、執権・北条家らは御家人保護の立場からこれを拒否しました。こうしたことにより、上皇と実朝の関係までもしだいに悪化していきます。

承久元年(1219)、頼家の遺児・公暁(こうぎょう)が将軍・実朝を暗殺。すると上皇は幕府と友好関係を保つ意欲を失い、従来の公武融和の方針を捨て、討幕を決意しました。一方、幕府は上皇の皇子を次期将軍として迎えようと要請します。しかし、上皇はこれを拒んだため、左大臣・九条道家(みちいえ)の子・頼経(よりつね)が鎌倉に下ることになります。上皇は頼経の東下を認めたものの、幕府の瓦解を望み、討幕の準備を進めたのでした。

そして承久3年(1221)5月14日、上皇は畿内近国の兵を集め、幕府を支持した西園寺公経(きんつね)を捕らえると、翌15日には、京都守護・伊賀光季(みつすえ)を討ちます。そして、執権・北条義時追討の宣旨を出したのでした。

しかし、幕府はこの宣旨を東国武士たちの手元に渡る前に、回収してしまいます。というのも、伊賀光季の使者や、西園寺公経の家司(けいし)が発した使者が鎌倉に入って、幕府首脳部にいち早く上皇の挙兵を知らせたからです。この他にも、三浦義村のもとを京方の主力である弟の胤義(たねよし)の使者が訪れ、京方へと誘う旨の書状を渡してきていました。義村はこれに返事もせずに、義時のもとへ駆けつけたとされます。かくして、幕府側は挙兵に際し、迅速に対応できたのでした。

しかし、この後鳥羽上皇挙兵の報せは、鎌倉に大きな動揺を与えました。そこで北条政子は、彼女のもとに集まった有力御家人らに対し、演説を行ったのです。

この出来事の内容と結果

政子の演説については『吾妻鏡』と慈光寺本『承久記』に詳細に記述されています。さらに『六代勝事記』を加えた3つを併せて、おおよその内容を知ることができます。政子は武士たちを庭中に集め、次のように語りました。

「皆心を一にして奉るべし、是れ最期の詞なり。故右大将軍(頼朝)朝敵を征罰し、関東を草創してより以降、官位と云ひ俸禄と云ひ、其の恩、既に山岳よりも高く、溟渤(めいぼつ)よりも深し。報謝の志浅からんや。

而るに今逆臣の讒(ざん)に依りて、非義の綸旨を下さる。名を惜しむの族(やから)は、早く秀康・胤義等を討ち取り、三代将軍の遺跡(ゆいせき)を全うすべし。但し院中(後鳥羽)に参らんと欲する者は、只今申しべし者(てえ)り。群参(ぐんさん)の士悉く命に応じ、且つ涙に溺れ返報を申すに委(つまびら)かならず。只命を軽んじて恩に酬いんことを思ふ。」

『吾妻鏡』

現代語訳は次の様になります。

「皆、心を一つにして聞きなさい。これは私の最期の言葉です。亡き将軍・頼朝様が朝敵であった平家を征伐し、関東を草創して以降、みなの地位も上がり、土地も増えた。その恩は山よりも高く、海よりも深い。その恩に報いる志が浅くありませんか。

そこに今、不忠の悪臣らの讒言によって、道義に反した綸旨(=後鳥羽上皇による追討の命令)が出されました。名声が失われるのを恐れる者は、早く藤原秀康・三浦胤義を討ち取り、3代にわたる将軍の遺跡(=先人の残した領地)を守るべきです。ただし、後鳥羽院に参りたい者は、今すぐ申し出なさい。」

これを聞いた武士たちは、涙に咽び、つぶさに返事を申すことができなかった、といわれます。これほど御家人らの胸を打ったのは、草創期から幕府を支えてきた頼朝の後家(ごけ=未亡人の意)である政子の演説であるからこそでしょう。平安後期頃より「後家」は、次の家長への中継ぎとして、亡き夫の持つ家長権の代理をする権限を持ちました。したがって、頼朝の持つ将軍家の家長権は、妻・政子に移っていたのです。

北条政子の演説、その後。次ページに続きます

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