御家人・和田義盛との主従を超えた関係について

I:その一方で、実朝は有力御家人の和田義盛(演・横田栄司)と妙に馬があう関係になりました。義盛を好演する横田栄司さんの「動的」なキャラクターと柿澤さんの「静的」なキャラクターの「主従関係」が特別印象に残る演出になっていましたが、演じる役者と作者三谷幸喜さんの思惑が見事に共有されていたことが浮かび上がりました。まずは柿澤さんの声をどうぞ。

〈(横田)栄司さんとは、蜷川幸雄さん亡きあとのシェイクスピア劇や『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』などの舞台で共演させていただいています。栄司さんも酒好きで、舞台の本番が終わったあと、よく飲みに行った仲です。「良き兄ちゃん」であり「芝居バカ」。ふたりともあまり覚えていないんですが、飲み屋で大喧嘩したこともあります(笑)。『鎌倉殿の13人』での実朝と和田義盛の関係は、シェイクスピア『ヘンリー四世』のハル王子とフォルスタッフとの関係に似ているなと感じていました。僕もシェイクスピア劇には何本か出演しているし、栄司さんもたくさん出演しているので、すぐにぴんときました。ハル王子が若くてまじめで、これから偉くなっていく。フォルスタッフは大酒のみで、かっぷくがよく「飲もうぜ!」みたいなキャラクター。そういうのを三谷さんは意識しているなと思いました。政をしない実朝、パーソナルな部分でも悩んでいる実朝、いつも下を向いている実朝。それに対して、御家人の中でも荒っぽいが純粋なところがあり、誰かを陥れるということがない和田義盛に実朝は共感するんですよね〉

I:10月9日に『鎌倉殿の13人』公式Twitterアカウントで公開された三谷幸喜さんのインタビューによれば、〈例えば、和田義盛と3代将軍実朝。ふたりの関係は、『ヘンリー四世』に出てくるフォルスタッフとハル王子に重なります〉と明言しています。

A:作者の思いが演者と共有されていたということですよね。もちろんそれを読み解くことのできるバックグラウンドを持つ役者をキャスティングしているということもあるのでしょうが、鳥肌が立つくらいのいいエピソードですよね。

主従を超えた友情で結ばれていた実朝と義盛(左/演・横田栄司)だが……。(C)NHK

柿澤勇人が選んだ「和歌」に秘された実朝の思いに注目

I:さて、私たちからは、実朝の和歌についての質問をさせていただきました。実朝といえば、自撰の家集(歌集)『金槐和歌集』を編み、この時代を代表する歌人として知られています。柿澤さんの答えに注目です。

〈実朝を演じるにあたって勉強したり、芸能指導の先生に何が正しいのか聞いたりしました。現代の歌ですと華やかで派手なものがすごいもの、と思われがちなのかもしれませんが、実朝の和歌はそうではないんですね。実朝の和歌は日常にあるもの……例えば舟をこいでいる漁師を見てこの平和が続けばいいと願うとか、庭先の梅を見て、僕がいなくなっても忘れないでね、とか、何気ない日常の風景や物、人を見て、そこから発想を得て自分の感情や世の中の状態と結びつけるのが非常にうまいなと思います。実朝は派手か地味かと言うとすごく地味で、素朴というかピュア。頼朝や頼家と同じ血を引いているとは思えないくらい、すごく純朴というんですかね。全てを網羅したわけではないですけれど、それが実朝の和歌にも表れているし、性格ともリンクしているんだろうなと思いました〉

A:ここ、ちょっとジーンとくる箇所でした。前者は百人一首にも採用されている〈世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも〉。後者が〈雪の降る〉当日に詠んだと『吾妻鏡』に記された〈出でいなば 主なき宿と 成ぬとも 軒端の梅よ 春をわするな〉だと思われます。事前に質問を通知していたわけでもないのに、瞬時にこの2首を挙げてくる。私たちの想像をはるかに越えて、実朝の治績、人生を頭の中に叩き込んで、実朝の感性と同化しているという印象を受けました。このドラマにかける意気込みに触れた思いもしますし、実朝の行く末をどう演じるのか、「絶対に見逃せないぞ」という思いを強くしました。

I:なぜ、柿澤さんがこの2首を選んだのか、そのことを頭の片隅に入れて、今後の物語を見守ってほしいですね。五七五七七が2首。たった62字で「実朝の心中」を見事に表現してくれました。これはすごいことじゃないですか!? 私も、ちょっとゾクゾクしています。

A:きっと、この2首の和歌に込められた実朝の思いに、震えるような展開になるのではと思います。心して、その時を待ちたいと思います。

I:そして、最後に第35回で大竹しのぶさん演じる歩き巫女のおばばが実朝に忠告した〈雪の日は出歩くな〉について、「柿澤さんから実朝にいってあげたいことはあるか」との質問に、こう答えていたことを付記しておきたいと思います。

〈やはり義時には気をつけろ、ですかね。義時のことをもっと監視しなさい、と〉

A:……。

和歌を愛した実朝。(C)NHK

構成/『サライ.歴史班』一乗谷かおり

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