印象に残った和田義盛と畠山重忠のやり取り
A:壮絶ですね。撮影時は真夏の死闘だったんですね。ほんとうに頭が下がります。さて、そのロケでは、和田義盛(演・横田栄司)とのやり取りも印象に残りました。あらゆる場面で二人の掛け合いが行なわれ、「名物」になった感もありましたが、演じていた中川さんにとってもことさら思い出に残る場面になったようです。
〈気付いたらずっと横にいる和田義盛という毛むくじゃらのおじさんがいて(笑)、重忠にとってすごく大きな存在になりました。第36回の台本を読んだ時からけっこうぐっときて、こらえるのに必死でした。撮影に入ってからも、和田義盛が畠山重忠を説得しにくるシーンは、リハーサルからぐっとくるものがあったんです。和田義盛という人物も振り返ればずっとともに過ごしてきた仲間であり、今回の畠山の乱は、向こうの敵陣には友達、幼馴染が並んでいるという戦でしたが、その中で代表して和田義盛が会いにくるっていうのは、三谷さんずるいよっていう感じでした。畠山と和田義盛は視聴者の方にとても愛してもらったのでありがたかったです〉
I:和田義盛と畠山重忠のやり取りは私の大好きな場面でした。通常年末に総集編が放映されますが、別枠で「畠山重忠と和田義盛名場面特集」も編集してほしいですね。
A:それはぜひやってほしいと思います。「全成と実衣」「文覚」「頼朝」の名場面を組み合わせれば2時間程度のスペシャル番組になりそうですが。
I:さて、中川さんは、大河ドラマとのかかわりについてもこんな風にいっていました。
〈初めて大河のスタジオに入ったのは小学校6年生(2011年の『江 姫たちの戦国』細川光千代役)。何もわからない、お芝居もはじめたばかりで、大河の現場はものすごく緊張しました。周りは先輩方ばかり、他では味わえない空気感が体に染みついて残っている。何年経っても、大河ドラマのスタジオに戻ると背筋が伸びるというか、怖いんですよね。やっぱりあそこに立つのは勇気がいるというか、その中でもやはり、負けずに、飲み込まれずに、戦い抜くっていうのが、今回の自分の中での目標だったりテーマだったりしたんですが、今回は、畠山重忠という男が毎回自分を奮い立たせてくれました〉
I: そして、中川さんは、座長の小栗旬さんへの思いについても語ってくれました。
〈小栗さんはお兄ちゃんのような、本当に大好きな方です。「鎌倉殿の13人」に関わっている出演者やスタッフは同じことを思っているはずです。小栗さんの周りには本当に人が集まってくる。人と人とをつなぐ力がある改めてすごいなと思う先輩です。ふたりで馬の稽古に行ったり、一緒に食事に行ったりしたこともあったし、いろんなことがありました。誰よりもこのドラマのこと、関わっているみんなのことを小栗さん自身が一番好きで、全てを捧げている印象です。僕ら後輩たちのこともかわいがって、ひっぱっていってくれる、本当に優しい先輩です〉
I:こういう話を聞くと、私にはそんな先輩がいなかったなあ、と思っちゃいます。だから、小栗さんのような俳優と1年間ともに組んだ日々というのは、必ず中川さんの大きな財産になったと思うんです。
A: 中川さんに大河ドラマで誰を演じてもらいたいか、真剣に議論してみたいですよね。さて、最後に畠山重忠に対して、こんな思いも吐露してくれました。その話で締めたいと思います。
〈いろんな思惑がうごめいている時代ですが、畠山はそんな中でも常に何かを得るために、損得勘定で人と付き合うことをしない男だと思って僕は演じてきました。自分がどこで生きてどこで死ぬかというのを考え、時として孤独に向き合ってきた人物なのかなと思っていました。頼朝が死んでしまった後の鎌倉の、北条の少しずつ歪んでいく姿を見て、この戦が起きなかったとしても、畠山は鎌倉を離れていたんじゃないかと感じていました〉
A:なんだか第36回、また見返してみたくなりますね。
※1:別表
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり