重忠に思いを馳せながら菅谷館をめぐる

さて、それでは菅谷館の散策を始めたい。前述のように戦国時代までの間に時代に応じた整備がなされたため、この館跡から、重忠時代の面影だけを探すのは難しい。むしろ、重忠時代から、時を経てもなお、関東の重要な地であった「菅谷館」の変遷を体感するべきなのだろう。ゆっくり回っても小1時間でまわれる感じで、山城のように登ったり、降りたりする個所がないのはありがたい。

土塁なども比較的良好に遺構としての体裁を残していることが、「続日本100名城」に選定された理由なのだろう。

二ノ郭の土塁上には、昭和4年に造営された畠山重忠像が立つ。平成23年には嵐山町の文化財に指定されたという。

嵐山町には、重忠の館跡だけにとどまらず、源氏ゆかりの史跡も残されている。大河ドラマにも登場した木曽義仲誕生の産湯跡があるという鎌形八幡神社、木曽義仲の父で、頼朝の兄源義平に討ち取られた源義賢の「大蔵館」跡、さらには義賢の墓もある。秋には嵐山渓谷に美しい紅葉を楽しむために多くの人々が訪れるという。

ところで、館跡にある畠山重忠像の視線は、今も鎌倉を向いているのだという。

畠山重忠が菅谷館を出発したのは、元久2年(1205)6月19日。3日後の22日に二俣川、鶴ヶ峰の地で、幕府軍と相まみえることになる。

重忠は、どのような思いで北条氏を中心とする幕府軍との戦いに挑んだのか。そう思うと、無性に武蔵国菅谷館から、二俣川に足を伸ばしたくなった。重忠が3日かけた道中だが、電車を乗り継げば約2時間。 その2時間、重忠のことだけを考えて向かうことにした。
(次回に続きます)

菅谷館の南郭。

構成/『サライ.歴史班』一乗谷かおり

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