文/印南敦史

正直なところ、こういう手段があるとは考えもしなかった。なにしろ、『定年前後の人のための「講師デビュー」入門』(鈴木誠一郎著。同文館出版)というタイトルを見ていただければおわかりのとおり、この本では定年後にすべきこととして「講師デビュー」という道を提案しているのである。

著者の鈴木誠一郎氏は、日産自動車株式会社に28年間勤務したのち、現在は講師/ビジネスコンサルタントとして、さまざまな業種の企業サポートを行なっているという人物。つまりは現役の講師だが、そのバックグラウンドには会社勤めによって得たノウハウがあるというわけだ。

知識と経験を活かし「講師デビュー」を目指そう

企業研修には、定年を控えたベテランの方々も参加されます。そんなベテランの方々とお話をしていると、ご自分の定年後について、「今のところ、とくに何も考えていない」とよく言われます。
しかし、ベテランの方々は、どの方も例外なく、これまで培ってきた深い知識と経験をお持ちです。そのような方がリタイアされて、その知識と経験を活かせる場から遠ざかってしまうことは、たいへん残念なことであり、また惜しいことでもあります。(本書「まえがき」より引用)

だからこそ、各人が蓄積してきたノウハウを活かし、「講師デビュー」を目指そうということである。「そんなことを言われても、あまり現実的ではないな」と思われても仕方がないだろう。しかし著者は、「なにも難しいことはない」と断言する。理由はシンプルで、つまりは「自分がいちばん得意なこと、よく知っていることを話せばいいだけだから」。

しかも、講師になることで得られるメリットはとても多いというのである。どんなことが考えられるのかを確認してみよう。

まずいちばんのメリットは、これまでに培ってきた「知識」と「経験」が丸ごと使えるということ。講師をはじめるからといって新たな知識を得る必要はなく、勤め人としての人生の前半に身につけた「知識」「能力」「技能」をそのまま活かせるということである。

何かを行おうとするとき、蓄積しているものを使うのが最も効率がいいものです。講師も同じで、あなたの得意分野を語ればいいのです。ちなみに、私の場合もまったく同じであり、サラリーマン時代に蓄積してきた知識やノウハウを伝えています。(本書17ページより引用)

そう語る著者が講師デビューするうえでコアな知識となったのは、会社の研修で培ったコーチング知識だったそうだ。

仕事を通して感動が得られる

メリットのふたつ目は、「感動」をもらうことができること。当然のことながら、講師をしていると、自分が話したことが聞いている人の琴線に触れる瞬間に出会えることになる。自分が相手に伝えたことの影響を目の当たりにできるわけで、そこには純粋な感動があるわけだ。

人が“気づく”瞬間に居合わせる、というのは、傍から見ていても感動します。私のように、年齢を重ねている人間でも感動してしまうのです。そんな感動できる場面に遭遇できるというのは、すばらしいことだと思っています。(本書19ページより引用)

講師の収入は意外と大きい

3つ目は、意外に大きな収入になること。デビュー直後は別としても、一般的に講師の収入は90分間の講演やセミナーでも5万円〜20万円程度が相場。やはりこれは見逃せないということだ。一般的に、60歳のパートやアルバイトの時給は850〜980円くらいが相場。しかし講師の場合、時給で2万5千〜10万円となるわけで、準備に時間はかかるものの割りがいい仕事ということになる。

これは、あなたの経験に基づいた「話」にそれだけの価値があるということです。つまり、他人がその価値を認めているということです。これ以上の充実感は、他ではなかなか味わうことはできません。(本書20ページより引用)

その他、「好きなときに活動できる」「自己存在感を感じることができる」「自分自身が『成長軌道』にのる」「生活にハリが出る」などのメリットもあるという。どんなときにも“自分”を軸として活動できるわけで、これは会社という後ろ盾を失った人にとっては、精神的にとても重要なことかもしれない。

また、同じように注目すべきは、講師を務めるようになると健康体であることが大切になってくるということ。そのため自然にウォーキングをしたり、暴飲暴食を慎むようになるというのだ。「話をしてくれるのを待っている人」がいる以上、たしかにそれは言えるだろう。

つまり講師になるということには、私たちのイメージよりも多くのメリットがあるのだ。そういう意味でも、講師を定年後の選択肢に加えることは、思っている以上に現実的なのかもしれない。

【今回の定年本】
『定年前後の人のための「講師デビュー」入門』
(鈴木誠一郎著 同文館出版)

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文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)などがある。

 

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