いかにも悪そうな顔つきで金子の入った袋を懐にしまい込む摂津晴門(演・片岡鶴太郎)。

三好一党の襲撃を受けた将軍足利義昭(演・滝藤賢一)のために二条城建設に着手した織田信長(演・染谷将太)。表向きは信長を立てる室町幕府官僚の腹黒さが露呈して……。

* * *

ライターI(以下I ): いきなりですが今週は冒頭に、東山慈照寺から運ばれてきたという庭石が登場しました。

編集者A(以下A):慈照寺といえば、足利義政が築いた銀閣寺。銀閣寺のことが冒頭にでてきたことで、合点がいったことがあります。『麒麟がくる』のメイン脚本家である池端俊策さんは、30年前の大河ドラマ『太平記』の脚本も手がけた方です。『麒麟がくる』が始まる前のインタビューでは、〈『太平記』で室町幕府の初めを描いたので、室町幕府の最期も描きたい〉という意味のことを話していました。

I:つまり、『麒麟がくる』のメインテーマは、30年前の『太平記』と連動して、室町幕府の足利将軍家の興亡を描くということですね。であれば、銀閣寺が出てくるのも合点がいきますね。

A:そう考えると、摂津晴門(演・片岡鶴太郎)の立ち位置がはっきり浮かんできます。晴門が現在務めている政所執事(まんどころしつじ)は、もともと伊勢氏の世襲でした。ところが、足利義輝が伊勢氏を政所執事から外して、摂津晴門を抜擢したわけです。今週の摂津晴門の描かれ方を見て、信長と義昭の仲違いの原因は、この摂津晴門なんだなと気づかされました。そのあたりの機微を丁寧にわかりやすく描いてくれたら最高なのですが。

I:光秀(演・長谷川博己)が〈幕府の内情は醜い〉と激怒していましたが、本当に京の政治は伏魔殿。摂津晴門が魔物に徹しそうですからスリリングな展開になりそうですね。

A:さっそく義昭が〈魔物〉摂津晴門に翻弄される場面がありました。晴門が、寺社の僧が将軍に直談判する場を設定してしまいます。そこで責められた義昭は、前週信長に〈岐阜に戻らず、ずっと京にいてくれ〉と言っていたにもかかわらず、その場しのぎに〈(信長は)いつまでも京にいるわけではない。いずれ岐阜に戻る〉とのたまうのです。

I:ああ、いかにも京都って感じですね。恐るべし、です。

どうなる駒と将軍義昭のただならぬ関係

嬉々として駒(演・門脇麦)に夢を語る将軍足利義昭(演・滝藤賢一)。

A:今週は駒と義昭のシーンが前半にきましたね。貧しい人々のために悲田処などを造りたいと話し合っていました。駒はその夢を実現すべく、丸薬作りにいっそう励む決意を固めました。

I:義昭は〈古の悲田院の如きものじゃ〉と熱弁を振るっていました。日本では奈良時代に光明皇后(聖武天皇の皇后)が設置した悲田院、施薬院が有名です。興福寺も同様の施設を設置していたという説もありますから、興福寺一条院の僧だった義昭が同様の施設の設置を考えるのは無理のない設定ですよね。

A:義昭の弁を真に受けた駒が金策するという展開になるのですかね?  このふたりの純粋な思いが、京の魔物にめちゃくちゃにされないことを祈ります。

I:近衛前久(演・本郷奏多)が伊呂波太夫(演・尾野真千子)の仲介で光秀に会います。

A:前久は、三好一党に強請られて足利義栄を第14代将軍に推挙したことで、流浪する羽目になっているところです。上杉輝虎(謙信)が、〈今の幕府は己の利しか頭にない。天下をにらみ、天下のために働くものがおらぬ。それゆえいつまでも世は治まらぬ〉と前久に訓じたことを披歴していました。

I:前久は現役関白であるにもかかわらず、永禄2年(1559)に輝虎が上洛した際に昵懇になり、その縁で実際に越後に下向したんですよね。

A:甲冑をまとって関東出陣に随行したといいますから、当時としては破天荒な貴族でした。この人物を主人公にした大河ドラマがあってもいいくらいなんですけどね。

流浪関白 近衛前久と上杉輝虎、そして、嗚呼黒井城

I:本編終了後の〈大河紀行〉に前久が流浪先に選んだという黒井城(兵庫県丹波市)が登場しました。

A:黒井城といえば、光秀による丹波攻略の山場となる城です。城主赤井直正が大河に登場かと地元の人たちは楽しみにしていたと思います。

I:でも、この段階で〈大河紀行〉に登場ということは、本編では登場しないことが濃厚ですね。地元の方々はがっかりだと思いますが、城跡がしっかり残っていますから、ぜひ訪れてほしい場所ではありますね。

A:光秀が心血を注いだ丹波攻略は、後の本能寺の変の動機にも直結する一大イベント。黒井城の攻防が登場しないということは残念なことです・・・・。さて今週は、光秀が、近衛前久と密会していたことが藤吉郎(演・佐々木蔵之介)の諜報活動で筒抜けだったことが興味深い場面でした。情報に敏な藤吉郎の様子は重大な伏線のような気もします。

I:本能寺の変後の中国大返しに関連してくるということですね。楽しみですね。

A:二条城の天主(天守)が描かれていたことなどトピックス満載の回でしたが、次回予告に帰蝶(演・川口春奈)が登場しました。

I:思わず、「キャー!!」と叫んでしまいました。前半線は女軍師の如く活躍していたのに、最近はすっかりご無沙汰で寂しい思いをしていましたから。1週間待たなきゃいけないのが辛いですね。

A:帰蝶と信長との絡みも期待したいです。そして、最終回が2021年の2月7日になることが発表されました。全44話完結です。話数が増えなかったことは残念ですが、最終回は15分拡大だそうです。巨大組織NHKの中でよくぞ踏ん張ってくれました。

I:『麒麟がくる』を親と一緒に見ている子どもたちが、一生の思い出として残るドラマになるように最終回まで頑張って制作してほしいです。

A:本当ですね(しみじみ)。

関白ながら都を追われ流浪の身となっている近衛前久(左/演・本郷奏多)と密会した光秀(演・長谷川博己)。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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