石仏を凝視する光秀(演・長谷川博己)の心情やいかに……?

織田信長(演・染谷将太)の支援を受けた足利義昭(演・滝藤賢一)がついに上洛を果たし、室町幕府第15代将軍に就任した。それまで京で実権を握っていた三好一党は京を脱する。三好配下だった松永久秀(演・吉田鋼太郎)は、名器を信長に献上するのだが……。

* * *

ライターI(以下I):今回冒頭で、信長に1000貫を進上されたにもかかわらず、〈1000貫あれば、貧しい一万人の人々が一か月暮らせる〉とした足利義昭の姿が前週のプレイバックで登場しました。

編集者A(以下A): 週またぎで同じ場面を登場させるのはよくありますが、この場面をセレクトしたのは、意味ありげですね。〈足利義昭は善人である〉という刷りこみなのでしょうか。気になる演出でした。

I:善人だったのが、信長と仲違いする過程で豹変するという伏線かもしれません。今後の展開に要注目ですよね。ところで、今週第14代将軍足利義栄(演・一ノ瀬颯)が亡くなるシーンがありました。三回目の登場ですが、台詞もなく退場することになりました。

A:足利義栄が大河ドラマに登場したことは、喜ばしいことでしたが、台詞なしで終わりましたね。足利義輝(演・向井理)以上に儚い最期でした。

I:さて、今週は、俗に本圀寺の変と称される事件が描かれました。(※本國寺、江戸期に本圀寺に改称。以下本圀寺に統一)

A:将軍義昭の御所だった本圀寺を三好一党が襲った事変ですね。本編では描かれていませんが、美濃を信長に奪われた斎藤龍興も襲撃に参加しています。本圀寺では将軍を守れないと悟った信長が、二条城を築くきっかけになった事件です。

I:その間の流れは元歴史読本編集者の安田清人氏に以前リポートしてもらいました( 旧二条城の発掘調査から見えてきた、信長と足利義昭との関係 ) 。 本圀寺では光秀(演・長谷川博己)がしっかり義昭を守っていました。このあたりから光秀も歴史の舞台に本格的に登場して来ますから、今後の展開から目を離せません。

A:今週は、注目したい場面がふたつありました。まず、松永久秀が信長の配下になる段で茶入の「つくもなす」が登場しました。もともと足利義満が所持していた足利家ゆかりの品です。足利義政が山名氏に譲り、やがて松永久秀が入手したという名器です。

I:その「つくもなす」が、一瞬写り込みました。

A:さすが、芸が細かい。ここで「つくもなす」が登場するということは、本能寺の変でも焼け跡から出てくる場面が描かれるかもしれないですね。個人的には「つくもなす」の来歴をドラマにしてもらいたいくらい歴史浪漫を感じます。

I:「つくもなす」は明治になって三菱の岩崎弥之助の手に入ったということで、現在は静嘉堂文庫美術館の所蔵となっています。現在は展示していないのですが、来年夏、6月30日から9月12日まで、三菱一号館美術館で展示されるようですよ。

松永久秀(演・吉田鋼太郎)が献上した名茶入れはその後数奇な運命を辿ることになる。

切断された石仏の顔が信長に酷似の謎?

A:もうひとつの注目場面は、二条城の建設現場での光秀と信長のやり取りで、石仏が運び込まれたところです。信長は〈公方さまの名前には不思議な力がある。大きな世を作るには欠かせぬお方じゃ〉と無邪気にしていましたが、石仏が登場して光秀の表情がにわかに曇りました。

I:台詞がなかったので表情で光秀の心情を読み解くしかないのですが、石仏を石垣に転用するのに対しての怒りを表していたのでしょうか?

A:どうなんでしょう。その判断は視聴者次第ということかと。この時代、石仏や墓石を石垣に転用するのは普通のことですし、後に光秀自身が築城した城でも転用石を利用していますから。ただ、信長の〈子供のころに仏をひっくり返したことがあって、罰があたると恐れていたが、なんにも起こらなかった〉という台詞は気になりました。『麒麟がくる』のメインの脚本家である池端俊策さんが30年前に手がけた大河ドラマ『太平記』でも少年時代の足利尊氏が神社の祠を密かに開けたところ、中には木片しか入っていなかったという場面がありました。ああ、『太平記』と世界観が同じなんだなという印象は持ちました。

I:私は、その流れで登場した切断された石仏のお顔が、信長に酷似していると感じました。その首を見つめる光秀の視線が本当に意味深でした。未来を暗示する場面なのかと、スリルを感じました。

A:確かにどちらかといえば丸顔の染谷さんと石仏の首は似ているといえば似ていました。そこも注目場面のひとつなんですかね。

I:先ほど光秀の表情の話が出ましたが、本圀寺の変の際の足利義昭の表情は見ものでした。怯えた様が見事に表現されていて唸りました。

A:光秀の表情や義昭の表情、さらには今週初登場の摂津晴門(演・片岡鶴太郎)の表情など、台詞なしでも楽しめる要素が満載という印象でした。無声にして活動弁士に解説してもらうバージョンも制作してほしいくらいです。

I:怯える足利義昭の姿や本圀寺でお湯を運ぶ姿など、滝藤賢一さんの演技は、本当に表現豊かで見入ってしまいます。前半戦の本木雅弘さん(斎藤道三)、高橋克典さん(織田信秀)や片岡愛之助さん(今川義元)、さらにはユースケ・サンタマリアさん(朝倉義景)など名優の演技を堪能できるのも大河ドラマならでは。劇中の光秀の年齢はすでに40代半ばに達していますが、髭をたくわえてますますたくましくなってきました。ちなみに丸薬つくりに忙しい駒(演・門脇麦)も劇中ではすでにアラフォーです。ふけメイクになっていることに気づいた人も多いのではないでしょうか。

A:終盤に摂津晴門が、〈満座でわしに恥をかかせおって〉と怒りを爆発させていました。日本の歴史を悩ませ続けた〈伏魔殿 京都〉が描かれる気配です。魔物に翻弄されるのは誰なのか?次週も楽しみで仕方ありませんね。

I: 今週も帰蝶(演・川口春奈)さんが台詞の中のみの登場でした。なんだかやきもきします。私は帰蝶さんに会いたいです!

A:(笑)。

足利義昭演じる滝藤賢一の表現力に注目!

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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