今回は、前回紹介の「ザ・ポール・ウィナーズ」について、さらに詳しく紹介します。じつはこのバンド、知れば知るほどすごいグループなのです。前回、「人気投票の結果に基づく『企画もの』バンドとしてスタートしましたが、さらに4枚のアルバムをリリースしました」とあっさり書きましたが、これはたんに「売れたからもう1作」のくり返しではありませんでした。

「ポール・ウィナー」( 第1位 )はリアルタイムの活動の反映ですから、「去年の1位」には意味がありません。むしろネガティヴなイメージになってしまいます。「ザ・ポール・ウィナーズ」はバンド名ですから、まあそれはそれでいいのですが、なんと彼らはほんとうに「ポール・ウィナーズ」としてアルバムを作っていたのです。


『ザ・ポール・ウィナーズ・ライド・アゲイン』(コンテンポラリー)
演奏:バーニー・ケッセル(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)、シェリー・マン(ドラムス)
録音:1958年8月19、21日
この年、バーニー・ケッセルは35歳、レイ・ブラウンが32歳、シェリー・マンは38歳でした。

最初のアルバム『ザ・ポール・ウィナーズ』は、1956年に3誌の人気投票で全部1位をとった3人によって作られました(57年録音/前回紹介)。2作目はその翌年の58年録音の『ザ・ポール・ウィナーズ・ライド・アゲイン』、そして3作目は59年録音の『ポール・ウィナーズ・スリー』なのですが、この3年、この3人はずっと『ダウンビート』『メトロノーム』『プレイボーイ』の3誌すべてでポール・ウィナーだったのです。さらに翌60年、彼らは4枚目となる『エクスプローリング・ザ・シーン』を録音します。この年(59年度)は『メトロノーム』では逃したものの、イギリスの『メロディ・メーカー』で3人揃ってポール・ウィナーになり、「4年連続3誌で3人とも1位」という大記録を打ち立てたのでした。

バーニー・ケッセル(1923〜2004)の活動を見てみると、1940年代から活動を始め、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)やオスカー・ピーターソン(ピアノ)らと共演。ポール・ウィナーの時期である50年代後半(55年から60年)は、ザ・ポール・ウィナーズのほかに6枚のリーダー・アルバムをリリースしています。また、当時はサイドマンとしての活動もたいへん活発で、ソニー・ロリンズ(テナー・サックス)、バディ・デフランコ(クラリネット)、オスカー・ピーターソンなど、ざっと数えただけでも25枚以上のアルバムに参加しています。ほかにも「歌伴」で、ジュリー・ロンドン(ケッセルが参加した「クライ・ミー・ア・リヴァー」はビルボード「HOT 100」チャート9位)、ビリー・ホリデイ、アニタ・オデイら人気者のたくさんのアルバムに参加しています。すごい数です。この状況を見ると、人気は「露出度」に比例するという見方も、逆に人気があるから活動の幅も広くなるという見方もできます。もちろんそこには相乗効果もあるでしょうが、その根本にあるのは「実力」ですよね。

じつはケッセルの実力が注目されたのは、ジャズの世界だけではありませんでした。60年代になるとケッセルは、ジャズ・ギタリストの活動と並行して、ロサンゼルスでスタジオ・ミュージシャンの活動も始めます。ケッセルは「レッキング・クルー」と呼ばれた職人ミュージシャン集団のひとりとして数多くのアルバムに参加しました。当時のヒット・ポップスは多くがスタジオ・ミュージシャンの演奏によるもので、何十ものナンバーワン・ヒット曲が彼らの手によって生み出されました。レッキング・クルーは最高の技術をもつヒット請負人でありながらもクレジットされることはほとんどありませんでしたが、ケッセルの演奏はザ・モンキーズやザ・ビーチ・ボーイズ、ソニー&シェールなどで聴くことができます。

なお、ザ・ポール・ウィナーズのもう1枚のアルバム『ストレイト・アヘッド』は、前作から15年を経ての再開セッション。これだけは人気投票とは関係なく、グループ名としての「ザ・ポール・ウィナーズ」によるアルバムです。さすがに演奏の質の高さは変わりませんが、人気投票とは縁遠くなってしまいました。人気投票は時代の反映であることをあらためて感じますね。


ザ・ポール・ウィナーズ『ストレイト・アヘッド』(コンテンポラリー)
演奏:バーニー・ケッセル(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)、シェリー・マン(ドラムス)
録音:1975年7月12日録音
服装の違いが時代の変化を感じますね。とくに1970年代は、ジャズマンのスーツ離れが目立ちました。

前回の最後に「マイルス・デイヴィスは『プレイボーイ』56年の人気投票では第8位」と書きました。気になっていた人にお伝えします。マイルスは59年の投票で『プレイボーイ』『ダウンビート』『メトロノーム』のいずれでも、トランペットの第1位になっています。どうぞご安心を。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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