取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
人気店の厨房を出て4年。今、自らの食事は1回9品目を念頭に献立を立てる。この食事法で、第二の人生を歩み始めた。
【斉風瑞さんの定番・朝めし自慢】
東京・南青山に、オリジナルの“ねぎワンタン”や“納豆チャーハン”で評判の店がある。中華風家庭料理『ふーみん』である。オーナーシェフとして45年間厨房に立ち続けた斉風瑞さんが語る。
「“ねぎワンタン”はある日、イラストレーターの和田誠さんが“ねぎそばの長ねぎをワンタンの上にのせてみたら”、と提案してくださったことから生まれた料理。“納豆チャーハン”も、炒めた納豆が美味しいという常連様のひと言から誕生しました」
昭和21年、台湾人の両親のもと東京に生まれた。高校卒業後、美容師として8年頑張ったが、接客のむずかしさから断念。そんなある日、友人を招いて家庭料理をふるまったところ、“こんな美味しい料理を私たちだけで食べるのはもったいない”という嬉しい評価。これが、転機となった。
昭和46年、東京・神宮前に中華風家庭料理『ふーみん』を開店。25歳だった。当時の東京は原宿や渋谷を中心に、新しい文化が発信されていた時代。『ふーみん』は、この地域に集う若き文化人らの憩いの場となっていった。
昭和61年、現在の南青山に移転。玄関のドアには、最初の店から贔屓にしてくれたイラストレーターの灘本唯人さんのロゴと、五味太郎さんのにんにくの絵が並ぶ。
幾多の客から愛された『ふーみん』だが、70歳を機に、店長だった甥に店を任せることを決意。第二の人生を選んだのである。
9品目健康法を実践
厨房を出て4年。多忙を極めた“ふーみんママ”時代と違って、今はゆったりと時間が流れる。朝食は、母の味を受け継いだ白粥に数種のおかずが並ぶが、
「バランスよく食べることが健康の基本。献立は、お客様で美容体育研究家の和田要子さんから教わった9品目をヒントに考えます」
和田式食事法の9品目とは、肉・魚・貝・海藻・卵・乳製品・野菜・豆類・油脂のこと。1食ごとにこの9品目を食べることで栄養のバランスが保たれ、無理のないダイエットもできるというものだ。
「今朝は貝が入っていないので、代わりに調味料としてオイスター(牡蠣)ソースを使っています」
9品目健康法で新たな道を歩む。
1日ひと組だけのサロンのような おもてなし空間をもちたい
時間に余裕ができた今、96歳になる実母の介護をしながら、食の知識の吸収と実践に努めている。
「年齢を重ねるにつれて美味しいだけではない、栄養学的にも体にいい料理を考えるようになった。美味プラス滋味とでもいうのかしら。だから、先に薬膳を学んでいた妹と一緒に私も勉強を始めた。学んだことはすぐ日替わりランチに取り入れました」
今は薬膳だけではない。2年前からはフレンチジャポネーゼ『鳴神』の料理教室にも通い始めた。
「『鳴神』さんの箸で食べるフランス料理が気に入って、以前からお邪魔していたけれど、料理教室があると聞いて申し込んだの。これがとても楽しいの」
学ぶ貌と、教える貌。今は料理研究家として教室や出張料理などでも活躍する。
「私は“食”を通して人と繋がってきた。食べるって大事なこと。第二の人生も出会う人すべてに、食べることで元気を与えたい」
目標は、1日ひと組だけの客をもてなすサロンのような食空間を作ること。その時を、そのおもてなし料理を待つ人は多い。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2020年7月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。