取材・文/渡辺陽
アンチエイジングや抗酸化作用のある食べ物などに注目が集まっていますが、人間、肌の老化と同じく、現代の科学では、どうしても避けられない老化もあります。そのひとつが白内障なのです。吹田徳洲会病院副院長で、アイセンター長の眞野富也医師(以下、眞野)に、白内障についてお話しいただきました。
■白内障は、交通事故や転倒の原因になるのでしょうか。
眞野 「高齢者の交通事故というと、認知症によるものが多いのではないかと思われるかもしれませんが、じつは、認知症以外の身体的な病期によるものが多く、問題になっています。白内障になると、夕方から夜間の暗い場所で、街灯や車のライトがまぶしくて、視界が悪くなり、事故を起こしてしまうことがあるのです」
「また、背景と対象物の区別をつけるための《コントラスト視力》が低下するため、ちょっとした段差でも見落としてしまう危険性が高まります。そのため、家の中であっても転倒して骨折、寝たきりになってしまうことがあるのです」
■睡眠不足にもなるのですか。
眞野 「日光を浴びると、光に含まれるブルーライトが眼を透過し、脳に『朝が来た』『いまは昼間だ』と伝達します。ところが、白内障にかかると、水晶体が白くなり、やがて黄色く濁るためブルーライト光が透過しにくくなり、昼なのか夜なのか、はっきり認識できなくなってしまうのです。眠気を誘うメラトニンというホルモンが十分に分泌されなくなります。、メラトニンは体内時計に関係しているため、夜になっても、よく眠れなくなることがあるのです」
■なぜ加齢によって白内障になるのでしょうか。
眞野 「水晶体は、カメラのレンズのようなもので、ピントを合わせる役割を果たしています。クリスタリンというタンパク質で満たされているのですが、加齢とともに、クリスタリンが凝集して、濁ってしまいます。若い時は濁りを修復することもできるのですが、年を取るにつれて、その機能が落ちてしまうのです。皮膚は、日焼けをしても古い皮膚がはがれて、新しい皮膚が再生します。しかし、眼の場合、水晶体の細胞が古くなると、逃げ場がないので水晶体の中へ、中へとたまっていく。ゴミをギューっと圧縮するようにたまるので、時間が経てば経つほど固くなります。40代から進行し、70代を超えるとほとんどの人が白内障にかかります」
■白内障は予防できないのですか。代表的な症状は?
眞野 「白内障の原因は、加齢以外にもたくさんあります。たとえば糖尿病は大きなリスクになるのです。その他、アトピー性皮膚炎や緑内障、ぶどう膜炎、交通事故や打撲などの外傷、放射線や紫外線、ステロイドなどの薬剤、タバコなどがあげられます。これらすべてを予防することは困難です」
「主な症状は、目がかすむ、視界がぼやける、視力の低下、まぶしく見える、ものが二重、三重に見える、左右で明るさが異なるといったことです」
■治療法は、あるのでしょうか。
眞野 「眼内レンズというレンズを入れ替える手術をするのですが、この手術をするタイミングは人によって違います。早ければ早いほどいいというものではありません。『日常生活に不便さを感じた時』に考えるといいでしょう。仕事や家事に支障がある、車の免許の更新ができない、外に出るとまぶしくて困る、対向車のヘッドライトがまぶしくて、夜の運転が怖いなど、人それぞれ困ることは違います。たとえば、80歳の女性で運転をしない人ならば、あえて手術をしないという選択もあるのです。ただ、濁りの原因であるタンパク質は、進行すると固くなってしまうので、手術が難しくなります。そのため、日常生活で感じる不便さと、進行の度合いのバランスによって、手術をする時期を決めるといい。また、寝たきりになってからでは手術を受けにくくなるので、ある程度元気なうちに手術をしたほうがいいでしょう」
加齢などの原因によって進行する白内障。40代から進行するので、年に一度は検診を受けたほうがいいと眞野医師は言います。白内障によって視界が悪くなるだけでなく、交通事故や転倒による寝たきりの原因になるので、注意したいですね。
眞野富也医師プロフィール
大阪大学医学部卒。関西労災病院眼科医長を経て、米マイアミ大学眼科に留学。市立堺病院眼科部長、多根記念眼科病院院長を歴任後、吹田徳洲会病院副院長、アイセンター長に就任。
得意な手技・分野 白内障(多焦点眼内レンズ)、緑内障、屈折矯正手術、角膜移植 https://www.suita.tokushukai.or.jp/sp/center/eye.php
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。